本研究では,エポキシドと二酸化炭素との交互共重合や環状エーテル・環状エステルなどの開環重合を取り上げ,それらの重合に向けた高性能金属重合触媒の開発を目的とした.特に,「重合進行の核となる金属錯体」と「重合進行を補助する機能部位」とを同一分子内に連結し,金属錯体と機能部位との協働作用を利用した高効率重合触媒の開発を目指した. (1)金属錯体間の協働作用を利用した触媒設計:リンカーとして剛直なベンゼン環を導入した二核および三核コバルト錯体を種々設計・合成した.コバルト錯体をベンゼン環に直結した場合では,単核錯体とほぼ同様の触媒活性であった.一方,エステル基を介して導入した錯体では,単核錯体よりも高い触媒活性を示し,協働作用を利用した触媒の開発に成功した.なお,今回調製した二核錯体と三核錯体では,ほぼ同等の触媒活性を示した.最終年度には,導入するコバルト錯体の絶対配置の組み合わせが触媒活性に及ぼす効果についても検討した.その結果,反対の絶対配置をもつコバルト錯体を一つずつ導入した二核錯体が,同じ絶対配置を持つ錯体二つを導入したものよりも高い活性を示すことを明らかにした.また,この錯体は,以前に報告しているアルキレン鎖で連結した二核錯体よりも高い活性を示し,触媒の高活性に成功した. (2)金属錯体-有機機能部位間の協働作用を利用した触媒設計:モノマーの活性化を担う金属錯体と,成長末端の活性化を担う塩基を共存させて,ラクチドの開環重合をおこなった.その結果,塩基のみ,もしくは金属錯体のみでは重合が進行しなかったのに対して,両者を共存させたときには重合が進行することを明らかにし,協働作用による触媒開発に成功した.最終年度では,この成果に基づき,金属錯体と塩基を連結した新規錯体を設計・合成したが,今回合成した錯体では,目的の重合が進行しないことがわかった.
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