研究課題/領域番号 |
25870217
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西林 一彦 東京工業大学, 像情報工学研究所, 特任助教 (20361181)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 磁性体 / 光導波路 / 磁気光学効果 |
研究概要 |
コア径50μmのマルチモード(MM)ファイバとGdFe磁性薄膜で構成するハイブリッドファイバにおいて磁気光学効果の検出に成功した。具体的にはコアと磁性体の間の光結合を強めるため、ファイバの側面側からの研磨速度を加工面がコアに達するまで増加した。また検出系の検出可能角度分解能の改良を行った。従来は光変調信号をハイブリッド構造に入力し、磁化状態を制御したときの出力光に現れる偏光面角度の変化を検出していた(角度分解能: ~15 mdeg)が、さらに角度分解能の向上と信号の安定化を図り磁化変調方式に切り替えた。そのためにソレノイドと電流増幅回路を作製し磁性体の一部の領域(直径 1.3 mmの円状)に交流磁場を印加して磁化を変調し、その同期信号をバランス検出系で抽出した。これにより偏光回転角の測定ゆらぎが 0.3mdeg となり、従来の精度に対して 40倍の改善が見られた。その結果、ハイブリッドファイバにおける磁気光学的な偏光変調信号の検出と、そのコア断面上における空間マッピングの測定に成功した。その結果、磁性体における磁化の変調場所とコアの断面上に分布する偏光変調信号の間に相関が見られた。これは磁性体における磁化の変調位置の制御により1本のMMファイバに複数の偏光変調信号を乗せられる可能性を示している。またコア上で電場が集中している場所ほど磁気光学信号が小さい傾向が見られ、これは位相の異なるモードの重なりにより磁気光学信号が弱められたと理解できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一年目の主目標であったハイブリッド構造における磁気光学効果の検出はMMファイバにおいて成功した。磁化変調の位置とコアの断面上での磁気光学変調信号の位置に対応が見られたことは予想以上の結果であったが、一方では50μmのファイバではコア内に存在する伝搬モードの数が多く(~100)、それらの重なりの結果、磁気光学信号の分布図が複雑になっているため、各伝搬モードにおける磁気光学効果の成分を切り分けるのが困難であることが分かった。今後はコア径の小さいファイバを用いてコア内に発生するモード数を減らして改善を試みる。磁化の光誘起歳差運動と堆積面の表面粗さとの間の相関については、当初はガラス基板においてある表面粗さが磁化歳差運動が発現する臨界値となると予想したが、高平坦性を持つガラス基板(表面粗さ: 0.2nm以下)にGdFe薄膜を製膜した場合でも歳差運動はほとんど観測されず、現在のところSi基板上の薄膜のみが歳差運動を示すだけである。これについては、他の磁気光学材料であるCo/Pd多層膜(垂直磁化膜で磁化特性の基板依存性はそれほど高くないと考えられる)においても同様の傾向が現れており、一概に比較は出来ないが表面粗さとは別の要素(例えば下地層の熱伝導効率)が寄与している可能性がある。今後は両者を比較しながら調査を進める必要がある。次にエバネッセント波における磁気光学効果の検出と議論は再現性よく定量的な測定と議論のしやすさを考慮して半球レンズの平面側にGdFe薄膜を製膜した擬似導波路構造を用いて調査することとした。そのための試料を作製し、光学系の構築を行った(完成度 75%)。エバネッセント波における磁気光学効果の理論的なモデルの構築については、一年目は主目標の達成に注力したため二年目に重点的に行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
ハイブリッドファイバにおける磁気光学効果の研究は、コア内に発生する伝播モードの数を減少させるためにコア径の小さい低モードファイバ(~25μm)と、シングルモードファイバや偏波保持ファイバを用いたハイブリッド構造を作製し、各モードにおける磁気光学信号の切り分けと信号強度の増大を試みる。そのための加工装置の改善を行う。またハイブリッド構造における磁性体部分の複数個所の磁化状態を磁場により変化させることで、磁気光学信号を使った光演算機能性の実証を行う。光誘起磁化歳差運動と表面粗さの平坦性の関係については、Co/Pd多層膜とGdFe薄膜との時間分解磁気光学信号や原子間力顕微鏡像の比較により解明を図る。エバネッセント波を用いた磁性体・コアカップリング効率の最適化は、ファイバの代用として原理検証実験用に作製した半球レンズハイブリッド構造(半球レンズの底面に25~200 nmのクラッド層をはさんでGdFe薄膜を作製した試料)を用いる。レンズ凸面側から入射したレーザーがレンズ底面での反射スポットで発生させたエバネッセント波をGdFe薄膜に到達させたときに反射光に現れる磁気光学効果の大きさの、クラッド層厚依存性を求めることで系統的に調べる。理論的モデルについては、複素誘電率テンソルの非対角項を取り入れた電磁場解析を矩形型導波路に適用して計算を行う。数値解的計算については電磁場解析ソフトの購入などにより擬似的計算の可能性を探る。デバイス用メモリ磁性体材料の探索については、半導体基板上に磁性体薄膜を製膜し、磁化特性や光誘起歳差運動の有無を調べる。
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