研究課題/領域番号 |
25870218
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
松浦 大輔 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (40618740)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 機械工学 / 弾性冗長機構 / 可変剛性機構 / 知能ロボット / 接触センシング |
研究概要 |
昨年度は,未知の環境内で活動するロボットの自律的な周辺環境・作業対象物の計測と行動計画への応用を目指し,物体に直接接触することでその物理的な性質を測定する接触センシングのコンセプトと,その実現のための可変剛性機構を有するマニピュレータの設計・試作を行った.さらに,試作マニピュレータを用いた実験により,提案手法の有効性を確認した.具体的には,(1)物体の動きやすさと軟らかさ,および足場として利用可能なほど大きな力を受けられる程度に固定されているか否かを判別するため,視覚情報と手先の作用力を統合した情報処理に基づき上記の条件を評価する接触センシングのコンセプトと,このコンセプトを実現するために可変剛性機能を有するマニピュレータを用いることを提案した.また,(2)剛性を作用力の大きさに応じて変更し,センシングの実行に最適な作用力推定分解能を保つため,出力プラットフォームの姿勢と回転剛性を独立して制御可能な可変剛性機構を提案し,その運動制御則を構築した.さらに,(3)上記の可変剛性機構を肩部の第一関節に具備した,平面3自由度可変剛性マニピュレータを設計・試作し,作用力推定実験を行った.この結果,提案手法により推定された作用力の値は力センサによる測定値と良く一致し,回転剛性を変えることで作用力の推定分解能が向上でき,連続的な値が得られることを確認した.上記の研究成果については,複数の学術講演会への講演論文としてまとめ,研究発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は,まず接触センシングを行うための概念的な方針を定めるため,形状や摩擦などの多様な要因に影響される物体の振る舞いを,印加力の向きおよび大きさと,物体の重心位置の変化という限られた情報により評価するコンセプトを提案した.また,その実行のためのアルゴリズムの開発と,実現に必要なハードウェアの設計・試作を行うため,マニピュレータに必要とされる関節配置や可変剛性機能の実装を行った.さらに,試作した平面3R可変剛性マニピュレータにより,肩部の剛性を変化させつつ物体に力を作用させる実験を行い,作用力推定を行う際の分解能と印加可能な力の最大値を連続的に変化させられること,ダイナミックレンジを変更することにより大きな力・小さな力ともに同等の分解能で計測可能であることを確認した. 交付申請書に記した本研究の目的は,予測困難な固定状態にある操作対象物の把持・加工や軟弱な路盤上でのロボット本体の移動・固定を行うために,対象物と予備的な接触を行い,その物理的性質を把握する,接触センシングのための機構および方法論の構築を行うこととしたが,その基礎的な部分は達成できたものと考える.また,昨年度の研究実施計画においては,接触センシングを行うためのマニピュレータ機構の設計のため,運動学解析・力学解析に基づく作業領域解析・剛性解析を行い,アクチュエータの必要出力と配置を決定することとしたが,これらについても達成できたものと考える.一方,未知の物体に接触センシングを行うためには,手先が対象物にアプローチする方向や作用させる力の大きさを決定するための戦略や,それに基づくマニピュレータの関節剛性の最適化などの運動制御則の確立が必要になるが,これらについては引き続き検討・実験検証を行う必要がある. 以上より,交付申請書の研究目的に対して,昨年度の達成度は概ね順調に進展しているものと評価する.
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今後の研究の推進方策 |
(1)マニピュレータがベースに対して完全に固定されない移動プラットフォームにおいて,目標とする作用力を適切に対象物に印加するため,ロボットのベースと路盤との間にばね・ダンパ系を設定し,手先と対象物および機構の内部剛性も考慮に入れたモデル化を行う.さらに,このモデルを用いて目標作業の達成に最適な内部剛性を決定すると共に,その達成に最適なアクチュエータ入力を,これまでに構築した運動解析・力解析手法を用いて決定する.厳密解が一意に定まらない場合は,繰り返し計算を用いる. (2) 視覚情報が利用できない状況を想定し,物体の表面に設定した任意の測定領域内で手先を掃引した結果に基づき,物体の形状および固定状況を推定する手法を構築する.手先を測定領域内で掃引した際,機構各部の関節角変位および角速度が急激に変化する点より物体との接触点を求め,その包絡形状より物体の形状を求める.さらに,設定した機構の内部剛性と接触時に生じた関節角変位より手先に作用している力の大きさと方向を求め,設定した機構剛性と合わせて物体の剛性を求めるとともに,その時間変化から物体の固定状況を推定する. マニピュレータの設計・試作と実験検証 (3)空間マニピュレータ機構および可変剛性マニピュレータを固定するための移動プラットフォームを設計・試作し,提案手法の実験検証を行う.まず,既知のばね定数を持つばねを介して静止節に結合された移動プラットフォーム上にマニピュレータを固定した実験装置を用いて,ばね定数と測定対象物体を様々に変えながらマニピュレータの駆動と接触センシングを行い,得られた結果から物体の固定剛性の推定可能範囲や測定形状の精度等を検証する.次に,車輪等の移動プラットフォーム上に可変剛性マニピュレータを設置し,未知の物体の物理的性質を推定する実験を行い,足場の判断を自律的に行い経路決定を行う等の作業を実施し,その妥当性を検証する.
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