本研究では,災害現場の未知環境内で足場の確認や不安定な瓦礫物体の除去・移動を行うためのマニピュレータの開発を行い,以下の結果を得た. (1)周囲の物体の安定性を確認するための手法として,視覚情報から得た物体の形状情報と予備的な接触により得た力覚情報,すなわち作用力に対する変形・変位の大きさとの関係を用いて,対象物体の安定性を推定する接触センシングのアルゴリズムを構築した. (2)上記の力覚情報を得るための災害対応マニピュレータの構造として,5つの回転関節を用いた空間シリアル機構の肩関節を,ばね要素を有する5R閉ループ機構により構成することで,角変位と回転剛性とを同時に所望の値とする方法を提案した.この構造により,手先にセンサを取り付けることなく肩関節の角変位情報に基づいて手先作用力の測定を可能とすると共に,構造の中でも特に複雑となる部分を胴体内に掩蔽し,耐環境性を向上させる設計を提案した. (3)災害現場で物体の安定性を確認する際に必要な,手先作用力の最小測定分解能を1.5 Nと定め,それを実現する一方,非常に大きな発揮力も実現できるような閉ループ機構の構造を検討した結果,複数の採用可能な構成の中からばねの有効長さを可変とする原理を用いる機構を採用し,可変剛性機構の設計・試作を行った. (4)マニピュレータの手先作用力を推定する実験および視覚情報と力覚情報を統合して物体の動きやすさを推定する実験を行った.この結果,肩関節周りのトルクの最小分解能が0.12 Nm,作用力の最小分解能が0.59 Nとなり,上記(3)の設計目標値を満足する結果が得られ,質量5kgの物体に滑りを生じさせる外力の大きさが5Nとなる結果が得られた.これらより,本研究で提案した可変剛性機構および接触センシングのアルゴリズムが物体の安定性を推定するために有効であることを示した.
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