研究課題/領域番号 |
25870223
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
下川辺 隆史 東京工業大学, 学術国際情報センター, 助教 (40636049)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 気象計算 / 高性能計算 / 高生産フレームワーク / GPU / スーパーコンピュータ |
研究概要 |
本研究では、気象庁が次期天気予報の現業コードとして開発している気象計算コードASUCAの完全版をフルGPU化する。GPUは画像処理を目的に開発されたプロセッサであり低消費電力で高速演算できる。これを汎用計算である気象計算ASUCAに適用し、高速かつ高精細な格子で計算することにより気象計算精度が格段に向上することを目的とする。一般のスパコンはエネルギー消費が大きく、東京工業大学のGPUスパコンTSUBAME2.5で計算することにより従来のCPUを搭載したスパコンの1/5の消費エネルギーで同じ予測を可能にする。また、GPU版ASUCAの開発を通し、実アプリケーションでの高い生産性を達成できるGPU利用技術を確立する。本年度においては、ほぼ当初の研究計画通りに、物理過程モジュールのGPUコードへの書き直しを行い、GPU版ASUCA本体である大気の流体計算の部分(力学過程)のコードを最新に更新しTSUBAME2.5への最適化を行った。GPUに特化した言語CUDAを直接用いた実装では保守性や拡張性に乏しいため、格子に基づいたシミュレーションのためのマルチGPUコンピューティング・フレームワークを開発し、これをASUCAへ適用しGPUへ実装した。フレームワークは、大規模GPU計算で重要となるノード間の通信を隠蔽する計算手法に対応している。従来の手法を拡張し、ノード内の通信ではGPU同士で直接通信する手法を新たに導入し、性能を向上させた。また、フレームワークを開発することで、GPUアプリケーションを高生産に開発する方法についての有益な知見が得られた。またTSUBAMEでGPU版ASUCAが大規模に実行できることを確認した。来年度は、GPU版ASUCAへGPUアーキテクチャを考慮した数値計算手法や高精細な格子を活かした高精度な数値計算手法を開発・導入し、気象予測精度の向上を目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画に示した通り、ASUCAの物理過程モジュールのGPU化を行い、ASUCA本体である力学過程のコードを最新に更新し、完成版を東京工業大学のスパコンTSUBAME2.5のGPU上で高精細格子を用い大規模に実行することに成功した。また、ASUCAの物理過程モジュールおよび力学過程のGPU化を通して、GPUに適した最適化手法、高い生産性でGPUアプリケーションを開発し利用する方法が確立した。特に力学過程の開発を通して、格子に基づいたシミュレーションを高い生産性で開発することができるフレームワークを構築した。フレームワークを用いることで、実装が複雑で導入が困難なGPUスパコンで性能を引き出すために重要となる通信を隠蔽する計算手法を簡便に導入することが可能となっている。このフレームワークは、気象計算だけではなく、その他の格子に基づいたシミュレーションの開発に有用である。また、フレームワークの構築を通して、GPUアプリケーションを高生産に開発する方法についての有益な知見が得られた。現在、業務で運用できるGPU版ASUCAがほぼ完成しており、TSUBAME2.5 を用いGPU版ASUCAの実行性能測定と消費エネルギーの測定を進めている。平成26年度の計画である高精細格子を用いた大規模計算を既に一部実行しており、また汎用的なGPUコンピューティング・フレームワークを構築できており、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
業務で運用できるGPU版ASUCAがほぼ完成したので、気象庁で用いられている実際の入力データを用い、TSUBAME2.5でこれを実行することで実行性能および消費エネルギーの測定を開始している。平成26年度は、GPU版ASUCAの最適化を進め、GPU版ASUCAとCPU版ASUCAの実行性能および消費エネルギーを比較し、実アプリケーションにおいてGPU計算が有用であることを示すことを目指す。また、GPU版ASUCAを発展させ、平成26年度はGPUアーキテクチャと高精細な計算格子を考慮した流体計算の数値計算手法を開発し導入していく。GPUの性能を最大限に引き出すため、メモリアクセスを減らし計算回数を増やしたGPUアーキテクチャを考慮した数値計算手法を開発し導入する予定である。また、TSUBAME2.5 の4000GPU以上を利用した大規模気象計算を行い、水平解像度200m以下という高い空間解像度を目指す。これに、200m程度の乱流まで再現することが可能な乱流モデルや高い空間解像度を活かした高精度な移流計算などを検討し導入し、最終的に気象予測としての精度向上を追求する。
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