研究課題/領域番号 |
25870230
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
中嶋 豊 電気通信大学, その他の研究科, 特任助教 (90513036)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高速時間処理 / フリッカ知覚 / 高速プロジェクタ |
研究実績の概要 |
本研究では,高速DLPプロジェクタを用い,これまで未知の領域であったヒトの超高速情報処理の時間限界を心理物理実験により明らかにすることを目的とした.本年度は,ヒトの時間処理限界(臨界融像周波数: CFF)を超えた時間領域で生じる錯視現象(パタン知覚)に焦点を当て検討した. CFF以上の速度(約60 Hz)で白黒に明滅するフリッカ刺激に対して,ヒトはその明滅を知覚することができない.それは一様輝度面(白黒)のフリッカに関わらず,パタン(矩形波)の輝度極性が反転するフリッカにおいても同様である.しかし,これらを連続して提示すると,それらの切り替わり時に一過的ではあるが明確にパタンが知覚される現象を見出だした.この切り替わり時に知覚されるパタンの時間特性を,400 Hzで明滅する一様輝度フリッカ,矩形波(パタン)フリッカを連続して提示し,矩形波フリッカの提示時間,切り替わり時の輝度極性を操作することにより検討した.実験では,一様輝度フリッカ,矩形波フリッカ,一様輝度フリッカの順で刺激を提示し,一過的変化を二度提示した.また,矩形波の方位を試行ごとに垂直もしくは水平に割り振った.参加者の課題は,一過的に知覚される矩形波(パタン)の方位について二肢強制選択(垂直もしくは水平)によって回答することであった. 実験の結果,二回の変化が異なる輝度極性である場合では,矩形波フリッカの提示時間がおよそ10 msであれば,一過的なパタンが知覚され方位弁別が可能であること,また,二回の変化が同一の輝度極性である場合ではおよそ4 msの提示であっても方位弁別が可能であることを示した.これらの結果は,ヒト視覚系がCFF以上の高速情報であっても,明確なパタン知覚を伴って輝度変化を検出できることを示唆し,変化時点の輝度平均の変化が高速提示下で生じるパタン知覚の要因である可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
26年度において,高速プロジェクタを使用した高速情報提示下における輪郭知覚についての心理物理実験を実施する予定であったが,実験を行なう際に想定外の見えが生じることが判明し,その原因の調査のため,研究発表,論文執筆の進展に滞りが生じた.原因を詳細に調査した結果,こうした現象が,高速プロジェクタによる刺激提示におけるアーティファクトや不具合ではなく,高速情報提示下におけるヒトの視覚特性の新たな側面が反映されたものである可能性が示された.この点について検討することで,上記の一過的パタン知覚に関する成果に繋がった.進展としてはやや遅れている状況であるが,進展が遅れていた原因を取り除くことができた点,一過的パタン知覚という高速情報提示下におけるヒト視覚系の新たな時間的側面を切りだすことができた点において,これらの遅れは解消されると考える.
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今後の研究の推進方策 |
高速情報提示下における一過的なパタン知覚について,本年度は基礎的な知見を得ることができたが,こうした時間特性が物理時間に従うものであるのか,フリッカのサイクル数に従うものであるのかを結論を下すことができていないため,今後はその点についての検討を進める.同様に,一過的なパタン知覚を説明する計算モデルについても,基礎的なモデルを提案しているものの,他一過現象との整合性を持つモデルについては検討の余地があるため,こうした計算モデルについても,より細かな時間条件の設定により明らかとしていく.これまでの検討により,高速プロジェクタを用いた心理物理実験法はほぼ確立したことから,今後の研究については滞りなく進めることができると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度において,高速プロジェクタを使用した高速輪郭に関する心理物理実験を行ない,Vision Science Society年次大会他国際会議にて発表,論文の執筆予定であったが,刺激提示に不備があることが判明したため(後に新たな錯視現象である可能性が示された),その原因の調査のため,発表,執筆を行なうことができず,未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
刺激提示の不具合が機器に起因するものではなく,ヒトの視覚特性によることが示唆された.そのため,未使用額は,この点について検討を行なうための実験機材の購入,参加者への謝礼,及び研究成果の学会発表,論文執筆のための経費に充てる予定である.
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