本研究の目的は、コリスチン及びバンコマイシンの腎臓における標的分子を明らかにし薬剤性腎障害の機序を解明するとともに、その標的分子阻害物質を探索し、腎障害の新しい予防法/治療法及び検査法を開発することである。 1)分子間結合解析を水晶発振子マイクロバランス法を用いて行った。膜トランスポーターについて解析すると、近位尿細管のスカベンジャー蛋白であるメガリンと、コリスチン・バンコマイシンの結合が認められた。さらにシラスタチンにおいてもメガリンとの結合が認められ、シラスタチンとゲンタマイシン(既知のメガリンリガンド)・コリスチン・バンコマイシンとの間でメガリンに対する競合阻害が生じることが明らかとなった。シラスタチンはメガリンリガンド拮抗物質と考えられた。 2)腎特異的モザイク型メガリンKOマウス(ApoE-cre)を用いてコリスチンによる腎障害を解析したところ、メガリン発現部位に一致した近位尿細管細胞障害が認められた。さらに野生型マウス(C57BL/6)においてコリスチン腎障害モデルを作成。シラスタチン同時投与を行うと、コリスチンによる腎障害がシラスタチン投与で軽減されることが明らかとなった。メガリンを介する新規の腎障害抑制薬として期待される。 3)臨床症例において、バンコマイシンとイミペネム/シラスタチン併用例とバンコマイシン単独使用例を後方視的に解析すると、併用例で腎機能増悪が低いことが示された。また、薬剤性腎障害例において尿中メガリンの測定が有効である可能性が示唆された。薬剤性腎障害における尿中メガリン測定とシラスタチン投与の有効性の解析目的に前向き研究を開始している。 尚、シラスタチンについては、メガリンリガンド拮抗剤として国内特許出願(出願番号2014-011530)、国際特許出願を行った(PCT/JP2015/51718)。
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