研究課題
高齢社会において摂食嚥下リハビリテーションは重要な課題の一つとなっている.安全に食事を行うためには,患者の咀嚼・嚥下能力に適した食事形態が提供されることが望ましいが,その食事形態は試行錯誤的もしくは定性的な評価により決定されることが多い.本研究では食品物性の違いと舌運動の関連を調べることを目的とし,ゲル試料の硬さと摂食様相の違いが舌圧に与える影響を検討した.被験者は若年健常有歯顎者とし,センサーシートにより舌圧を記録した.測定時には2種類のゲル試料5mlを験者の指示の後,舌での押しつぶしのみもしくは歯で咀嚼させて摂取させた.試料は物性の異なる二種類のゲル(ゲル試料A,B)とし,それぞれ三段階の硬さを用意した.その結果,いずれのゲルにおいても硬さは押しつぶし時および咀嚼時舌圧の大きさに影響を与えており,硬いゲルの場合には高い舌圧・持続時間が認められた.また,押しつぶし後および咀嚼後の嚥下時舌圧を比較すると,ゲル試料Aでは摂食様相が変化しても,嚥下時の舌圧最大値・持続時間ともに変化が見られず,押しつぶしだけで十分食塊形成できたと考えられた.一方,ゲル試料Bでは舌圧最大値・持続時間ともに押しつぶし後より咀嚼後の嚥下時の方が有意に小さく,咀嚼して初めて食塊形成が容易にできることが分かった.以上より,ゲル化剤濃度に応じて押しつぶし時または咀嚼時の舌圧は変化しており,押しつぶしまたは咀嚼運動中には食物の硬さを感知して調整していた.また,ゲル試料Aは崩れやすく一度の押しつぶしで破断するが,ゲル試料Bは破断しないため押しつぶした後も嚥下時に力を要すると考えられた.咀嚼は押しつぶしに比べ強い舌圧を必要とせず,容易にゲル試料を十分に嚥下できる食塊に形成することができると考えられた.
すべて 2015
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Food Hydrocolloids
巻: 44 ページ: 145-155