神経軸索の先端には成長円錐と呼ばれる非常に運動性の高い構造体が存在する。成長円錐は細胞骨格の再編成及び膜輸送により運動性を獲得し、軸索を牽引することで軸索伸長を制御する。これまでに、我々は成長円錐における情報伝達系を明らかにする事を目的とし、リン酸化プロテオーム解析を行っきた。本研究では、特にリン酸化の頻度が高いGAP-43の96番目のSerに着目し、その責任キナーゼの同定及びその下流シグナル経路の解析を行った。GAP-43はパルミトイル化で細胞膜にアンカーし、PKCでリン酸化されるIQ motifを有する分子である。Ser96は、GAP-43のIQ motifよりC末側に位置しており、確かに成長円錐内で高頻度にリン酸化されていたが、PKCリン酸化部位であるSer41は殆ど検出されなかった。 今年度は、Ser96におけるリン酸化型GAP-43の特異的抗体とキナーゼに対するsiRNAを用いた解析を行い、JNK1が責任キナーゼであることを同定した。JNK1は神経発生過程の軸索成長において重要な役割を担うmitogen-activated protein kinaseである。一方で、GAP-43にリン酸化依存的に結合する分子を探索し候補タンパク質を同定することにも成功した。同定された分子の幾つかは、活性酸素の消去に関わる分子でることから、GAP-43のリン酸化は神経成長過程における酸化還元恒常性維持に関与しているのではないかということが予測された。現在これらの分子の神経成長機能についても解析を進めている。このリン酸化の機能的意義についても、GAP-43 Ser96Ala ノックインマウスを用いて突起伸長過程における活性酸素レベルを評価した。現在までには、野生型と比較して有意な違いは認められていない。今後は、より感度の高い方法を用いて、成長円錐における活性酸素レベルの変動について解析を進める予定である。
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