研究課題
1.BDNF-Lucマウス由来大脳皮質ニューロンを用いた発光イメージング:ドーパミンなどの神経調節性伝達物質の主要なレセプターであるGタンパク質共役型レセプター(GPCR)の活性化によるBDNF遺伝子発現制御を解析した結果、GPCR活性化によるBDNF遺伝子発現誘導には、活動的なNMDAレセプターが必要であり、GPCRシグナルはNMDAレセプターの下流に位置するタンパク質脱リン酸化酵素カルシニューリンを選択的に活性化することにより、転写制御因子CREBのコアクチベーターであるCRTC1の核移行を促進し、BDNF遺伝子発現誘導を効率よく引き起こすことを新たに見出した。2.BDNF遺伝子発現誘導能を有する薬剤スクリーニング:BDNF-Lucマウス由来大脳皮質ニューロンを96穴フォーマットで培養し、BDNF遺伝子発現誘導能を有する化合物、薬剤スクリーニングを行った。その結果、特にドーパミンやアドレナリンレセプターアゴニストのいくつかに強い活性が認められた。3.生体BDNF-Lucマウスを用いた発光イメージング:生体BDNF-Lucマウスに基質であるルシフェリンを投与し、頭部の発光をイメージングにより測定した結果、実際に頭部において発光が確認できたが、皮膚と思われる部分でも発光が確認された。そのため、脳を標的として発光イメージングを行う際は、頭部の皮膚を麻酔下で除去し、回復後に解析を行う必要がある。また、発光イメージングはマウスの頭部を上からカメラで撮影し行うが、この場合、大脳皮質における発光が主に検出され、大脳皮質よりも深部の発光変化の検出は難しいことが予想された。そのため、現在は大脳皮質におけるBDNF遺伝子発現変化を発光イメージングにより計測している。
2: おおむね順調に進展している
生体BDNF-Lucマウスを用いた発光イメージングについては、皮膚における発光を考慮する必要があったため、解析がやや遅れているが、一方で、培養神経細胞などを用いた発光イメージングでは、個々の神経細胞ではっきりとした発光強度の変化を捉えることができ、この成果はThe Journal of Neuroscience誌に受理された。さらに、96ウェルフォーマットを用いたBDNF遺伝子発現誘導剤のスクリーニングでは、迅速・簡便に薬剤や化合物の活性を神経細胞で評価することに成功し、現在、このスクリーニングは予想以上に進展している。このスクリーニング結果を元に、マウス個体での薬効評価も進みつつある。以上の点を総合的に評価し、本年度の研究の達成度はおおむね順調に進展していると判断した。
本研究は最終年度となるため、今後は、BDNF遺伝子発現誘導剤のスクリーニングにより同定された薬剤や化合物が脳機能に与える影響を解析する。具体的には、BDNF遺伝子発現誘導剤投与群および非投与群における脳機能の変化について、記憶や学習のモデルとして汎用されている文脈性恐怖記憶などを用いて解析する。さらに、これらの薬剤などが低下した脳機能の改善効果を有するかどうか、疾患や老化のモデルマウスを用いて解析する。以上の解析により、BDNF遺伝子発現誘導能を指標とした精神疾患治療薬の候補薬剤開発の基盤構築へと結びつく成果を得る。
平成26年度は、ほぼ予定通りの実験計画で研究を実施した。そのため、生じた次年度使用額は、平成25年度の研究棟改修工事のために一部取りやめた物品・消耗品購入分がほとんどである。
平成25年度の研究棟改修工事で実施が遅れた実験、特にマウス個体を用いた解析に使用する。最終年度では、疾患や老化のモデルマウスを用いた実験を計画しているため、これらマウスの購入費などに使用する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)
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