研究課題/領域番号 |
25870258
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
田口 久美子 星薬科大学, 薬学部, 助教 (20600472)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 血管内皮機能不全 / GRK2 / 分子薬理学 |
研究概要 |
糖尿病は遺伝的素因と環境素因が複雑に絡み合い、多くの疾患を合併している場合が多く、これら疾患に共通した病理学的特徴は、血管障害であることが知られている。申請者はGRK2 (G-protein coupled receptor kinase 2) が糖尿病病態時において血管に集積し、Akt/eNOS経路を抑制することにより血管内皮障害を引き起こしていることを見出した。申請者は、本研究において、GRK2自身もしくはGRK2活性抑制分子を標的とした糖尿病性合併症の治療薬開発へと展開するための研究基盤を確立することを目指している。本年度は培養細胞実験系の確立とSTZ誘発糖尿病ラットを用いた糖尿病性血管障害の発症と血小板について検討し、病態時における血管機能とGRK2の関与を検討する上で重要な基礎研究を行った。その結果、以下の結果を得ることができた。 1.ヒト血管内皮細胞(HUVEC; ヒト臍帯静脈内皮細胞)を用いた培養細胞実験系を立ち上げ、糖尿病性血管障害時のGRK2誘導原因物質の探索を行った。アンギオテンシンII(Ang II)をHUVECに処置したが、48時間経過後もGRK2誘導は起こらなかった。しかし、high glucose処置下に同時に、Ang II処置するとGRK2誘導が観察された。その時、ERK1/2のリン酸化も共に増加してくることから、GRK2誘導経路として、MAPK経路が関与している可能性が考えられる。詳細な検討を予定している。 2.STZ誘発糖尿病ラットより採取した血小板が活性化した状態で頸動脈に接着し、血管弛緩因子であるNOを産生させるNO合成酵素(eNOS)の発現を減少させることを明らかにした。GRK2はeNOS活性によるNO産生を制御していることから、活性化血小板の血管内皮細胞への接着がGRK2を誘導しているのではないかと考え、詳細な検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、GRK2を過剰に発現させた血管内皮細胞を用いて、β-arrestin 2やAkt経路・MAPK経路・AMPK経路等、GRK2との相互作用が報告されているタンパクとの関係についてWestern blotting 法やELISA法、免疫染色法等生化学的手法を用いて解析することを予定していた。しかしながら、本年度途中に所属を異動(富山大学から星薬科大学)したため、研究環境や研究実施場所が大きく変更することとなった。その結果、予定していたin vitro実験については、培養細胞実験を立ち上げるところからの研究スタートとなり、細胞実験の基礎的データの収集に費やすこととなった。現段階においては、培養操作にも慣れ、High glucoseおよびAng II処置によるGRK2誘導を確認することができた。一方で、in vivo実験においては、現所属において機能評価法が確立されていることから、多くのデータを集めることができた。その結果、糖尿病性血管障害と血小板活性という全く予期していなかった結果を得ることができたのである。これらのことを総合的に判断し、現在、進捗が若干遅れていると感じているが、この遅れは、すぐに取り戻せると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、本年度の研究によって、糖尿病時における血管内皮障害のシグナル異常には、血小板活性が密接に関与していること、それにはGRK2が関与している可能性があること、また、高血糖とAng IIの相乗効果によりGRK2が誘導される可能性を示唆した。さらには、Aktシグナルと共にMAPKシグナルの関与も示唆された。このように、本年度の培養細胞実験系の確立によって集めたGRK2の基礎的データをもとに、さらに動物実験を重ね、GRK2を分子標的とする阻害薬投与またはsiRNA投与による臨床応用への基盤データを積み重ねていくことを予定している。特に、様々なタイプの糖尿病モデル動物にGRK2阻害薬やGRK2 siRNAを連続投与することで、血管内皮細胞障害に対するGRK2の関与ばかりでなく、他の臓器(筋肉、肝臓、腎臓等)への影響を検討することで、GRK2阻害薬やGRK2 siRNAが特異的に血管へ作用したのか、他の臓器においてインスリン抵抗性改善等の効果により内皮機能が改善した2次的な効果なのかを検証し、どこの臓器へ特異的にGRK2阻害薬やGRK2 siRNAを送達させる必要があるのかを明らかとし、臨床応用への基盤を作りたいと考えている。胸部大動脈においては、NO産生シグナルが血管緊張性調節に重要であり、本研究で見出された成果が糖尿病性血管障害に対する治療戦略の一助となるようさらに努力を重ねていく所存である。
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次年度の研究費の使用計画 |
所属異動により、実験環境が大幅に変わり、研究題目遂行が若干遅れたことに伴い、物品購入が遅れたため、次年度へ繰り越すこととなった。 現在、研究環境が整い、これから順次購入予定である。今年度、使用予定だった分で抗体を購入予定である。
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