ヒトのタンパク質の30%を占めるコラーゲンは細胞・組織・器官の構造の維持に重要な細胞外マトリックスの主成分タンパク質である。コラーゲン分解酵素はコラーゲン特異的なタンパク質分解酵素で、コラーゲン代謝に重要な役割を持っており、細胞運動(がん細胞の浸潤)、組織・器官の再生、細菌感染などに関連している。医科学的見地からも重要な酵素であるにも関わらず、コラーゲン分解反応の触媒メカニズムは未解明のままであった。生体内では大部分のコラーゲンは外観上特有な縞模様を有する高次の線維構造(フィブリル、ファイバー)を形成する。コラーゲンの構造はコラーゲン分解酵素の活性を決する要因の一つだが、コラーゲンの高次線維構造は不溶性であるため、一般の溶液系の生化学研究を行い難い。生理条件下で不溶性の線維構造上での酵素を観察する手法には光学顕微鏡を用いた蛍光一分子観察があるが、充分な空間分解能があるとは言えない。そこで、本研究では高い時間分解能と空間分解能を持ち合わせた高速原子間力顕微鏡(高速AFM)を用いてコラーゲン線維上でのコラーゲン分解酵素による触媒反応を観察した。その結果、コラーゲン分解酵素がコラーゲンを分解する際に、コラーゲン線維の上を線維軸に沿って運動することを発見した。高速高次構造を形成して不溶性となるタンパク質はコラーゲンのみならず、他にも多数の種類があるので、これらが関係する酵素反応の触媒メカニズムを解明するに当たっても本研究の実験手法・解析手法は極めて有効である。
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