最終年度では、3年間の研究の成果を踏まえ、2つの学会報告を行った。ひとつは、日本教育学会第74回大会にて「「戦後民間教育運動における技術教育論の射程-高度成長期の技術教育研究会の展開に焦点をあてて-」という報告である。特に中学校教育における技術教育認識の展開に焦点をあてながら、技術教育研究会がノンエリート教育の創出に向けて試行錯誤する展開を描いた。もうひとつは、日本教育社会学会第67回大会にて「戦後の教育政治を問い直す 教育研究運動は近代学校批判をどのように受け止めたのか」という報告を行った。これは戦後の民間教育研究運動のナショナルセンターともいえる教育科学研究会に焦点をあて、それらが1970年代に登場する近代学校批判にいかに対応したのかを検討したものである。それにより、ナイーブな普遍主義を相対化する近代学校批判を前に、階級文化論に根ざした視点をもった研究運動が一定程度生まれたが、それ以外のマイノリティ運動と共振することができなかったことが明らかになった。エリートと峻別されたノンエリート教育の戦略的創出はさほどなされなかったことを意味する。 2013年度から2015年度にかけての3年間で、明らかにしたことは、全国進路指導研究会、教育科学研究会、技術教育研究会という3つの研究運動団体の1960年代から70年代にかけての「転換」である。高校生活指導研究協議会ではなく、教育科学研究会や技術教育研究会を対象にした点は、当初の研究計画からズレたものの、逆に中学校教育に焦点がしぼられ、その変遷から、戦後型「ノンエリート教育」の創出の様相はかなりの程度明らかになった。具体的には、戦後民間教育運動は当初は新中間層とは相対的に独自な労働者階級文化に根ざした教育をつくる指向があったこと、しかし、それが高度成長期の展開の中で後景化していったことが明らかになった。
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