研究課題
若手研究(B)
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、中枢神経系の機能障害とされているが、現在の診断は行動的特徴に基づいてなされている。その診断基準である社会性やコミュニケーションを評価するにあたり、社会の中でのふるまいの「適切さ」の基準は文化依存的であると考えられるが、その一方で、欧米圏ではアセスメント手法の国際標準化が進んでいるという現状にある。本研究では、ASD児の社会的行動を比較し、その発達に文化的な影響を示唆する差異が存在するかどうかを明らかにすることを目的とした。当該年度の実施内容は以下のとおりである。1.文献調査:ASD児の発達およびその評価についての文献調査をおもに実施した。また、Society for Research in Child Development(3月、Seattle)にて言語比較を行った研究調査の発表をおこなった。さらにはChild Language Seminar(6月、Manchester)に参加したほか、ロンドン大学ロイヤルホロウェイ心理学部を訪問し、自閉症の国際比較研究についての最新の情報を収集した。これらの資料から得られた知見を、書籍「自閉症という謎に迫る:研究最前線報告」の一章に執筆した。2.コーパスの作成:自閉症スペクトラム児におけるフィクショナルナラティブデータの収集を行い、統制群と臨床群について各20名の書き起こしが完了した。発話中の言い淀み、言い換え、フィラーの使用に着目し、2群間の頻度に群間差があることが示された。3.心理実験:感情プロソディー理解の発達を検証する心理実験をASD児に実施した。言語内容とプロソディーの両方に感情価が付与された条件と、プロソディーのみに感情価が付与された条件では、ASD児の理解が異なることが明らかになった。この実験から得られた結果は、Autism Europe(9月、Budapest、Hungary)にて発表された。
2: おおむね順調に進展している
文献調査がまとまり書籍として出版ができたこと、文化差比較のためのデータベースとなる音声発話コーパスの作成が進んでいることから、概ね順調に進んでいると評価される。
音声発話コーパスについては、今後さらにCHAT形式での書き起こしと音声とのリンクを進め、データベースを完成させる。またこれをもとに、すでに公開されているASD英語話者のデータベースとの比較分析を進めていく。行動実験にあたっては、今後研究協力者との連携をとって国際比較を実施する。
音声発話データベースの作成にあたり、CHAT形式への文字転記を予定していたが、臨床群-制群の言語・知能マッチングを行うためにデータの追加収集が必要となり、それに応じて、書き起こしは完了したが転記の作業を次年度に繰り越すこととしたた。よって25年度に作業委託費に充てていた額について未使額が生じた。これに関わる作業を26年度に実施するため、未使用額をその経費に充てるものとする。
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英語教育
巻: 63 ページ: 54-56
ことばと人間
巻: 9 ページ: 127-143