研究課題/領域番号 |
25870267
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
松村 和明 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 准教授 (00432328)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 凍結保存 / 両性電解質高分子 / 固体NMR |
研究概要 |
固体1H-NMR および23Na-NMR にてすでに凍結保護作用の確認されているカルボキシル化ポリリジン(PLL(0.65))-塩化ナトリウム水溶液を測定した。比較対象は凍結保護作用のある10%DMSO/塩化ナトリウム水溶液、保護作用のない生理食塩水、非電解質高分子であるポリエチレングリコール(PEG)、タンパク質であるアルブミンの食塩水溶液とした。温度を-40℃程度から1-2℃刻みで室温程度までの温度範囲で測定し、水のプロトンの強度から残存水量を定量したところ、DMSO溶液で最も残存水が多くなり、PLL(0.65)溶液の残存水はPEG溶液よりも少ない結果であった。この結果より、残存水のみでは凍結保護作用が説明出来ないことがわかる。23Na-NMRの結果より、各水溶液の凍結時のNaの挙動をそのピーク強度から評価したところ、DMSOではそのような相転移は見られず、ピークは広幅化しながらも面積強度はほぼ一定を保っていた。PLL(0.65)では同じく共晶による相転移は見られなかったが、凍結中の広幅化はDMSO等よりもさらに顕著となり、-11℃以下の低温領域で急速に広幅化し観測されなくなった。このことからPLL(0.65)溶液は系を何らかの不均一な状態へ変え、一方のナトリウム成分の運動性を抑制し、あたかも高分子に束縛された固体のように振る舞わせることで浸透圧への寄与を弱めていると予想された。以上のことから、 PLL(0.65)が凍結に伴う急激な浸透圧変化を弱めるバッファーとして機能することで凍害保護作用を果たしている可能性が示唆された。蛍光顕微鏡を用いた細胞膜への高分子の集積も確認することができ、細胞膜の保護活性に関しても一定の知見が得られた。新たな試みとして、上記凍結濃縮現象を利用したタンパク質デリバリーに関する知見も得られ、研究の異分野への発展も期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度には、固体NMRによる、凍結時の溶液の残存水量や塩濃度の解析から細胞外溶液の凍結濃縮について詳細名データを得ることができた。この結果は現在論文にまとめており、本研究計画の最も重要な部分で、大きな進展があり1年目の成果としては予定通りである。また、共晶点顕微鏡による細胞膜への高分子の吸着に関しては、凍結時に膜近傍に濃縮されることによる膜保護と強い相関があることが確認され、ほぼ予定通り達成された。翌年実施予定、の疎水性部を付与した両性電解質高分子では、予備実験の結果、より高い細胞膜への吸着が凍結時に起こっており、上記仮説を支持している。一方、凍結時の濃縮を積極的に用いて、有用分子(タンパク質など)を凍結により細胞膜近辺に濃縮して、取り込みを促進するという新規なアイデアが上記知見から得られ、新しいドラッグデリバリーシステムの研究へと進展することが期待できる。 以上より、当初の計画に加えて新規研究のアイデアが得られた点から、当初の計画以上に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
カルボキシル化ポリリジンのみならず、他の両性高分子電解質を合成し、比較検討する。プラスの電荷を持った側鎖を3 級アミンとした両性電解質高分子は可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合によりリビング重合で合成できることが知られており、分子量を制御した高分子を作成することが可能である。例えばジメチルアミノエチルメタクリレー(DMAEMA)とメタクリル酸(MA)の共重合体ポリ(DMAEMA-co-MA)を重合し、保護効果を確認する。分子量や電荷のバランスが異なる共重合体や疎水性基を導入した共重合体なども合成する。これらの両性電解質高分子溶液の細胞凍結保護作用を比較する。 これら新規合成高分子においても、固体NMRで凍結濃縮が起こるかどうかを検討する。 リポソームを作成し、リン脂質の保護作用を評価する。具体的には、リポソームを作成し、中に蛍光物質を入れておくことで、凍結後の膜障害の様子を外部に漏れ出た蛍光物質により評価することが可能である。リン脂質を変えることで高分子化合物とリポソームの相互作用を評価でき、電荷や疎水効果が保護に及ぼす影響を詳細に調べることが可能である。合成両性電解質高分子にブチルメタクリレートなどの疎水性部位やヒドロキシエチルメタクリレートなどの親水性基を導入し、親水、疎水性の影響を確認する。以上の結果から両性電解質高分子の凍結保護活性機序を総合的に推察する。その機序に基づいた分子設計を行い、機能性高分子化合物の創製などの新たな研究につなげる。 今年度、新しく得られたアイデアである凍結濃縮によるドラッグデリバリーの効率化に関して予備実験を行い、次年度の新しい研究申請に資するデータを得、研究の新たな芳香性への発展、つながりを目指す。得られた成果を学会・論文発表により、積極的に発信する。
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