研究課題/領域番号 |
25870270
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
岸野 麻衣 福井大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (80452126)
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研究期間 (年度) |
2014-02-01 – 2017-03-31
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キーワード | 授業研究 / 省察 / 学習観 / 教師 |
研究実績の概要 |
1.研究目的:学校での授業研究で生じる第1の形態の省察(他者の実践を介した自己の省察)・第2の形態の省察(他者の目を介した自己の省察)が,中堅期の教師の課題の一つである授業の再構築にどのように結びつくのかを検討した。 2.方法:4つの小学校と1つの教育行政機関に在籍する5名の中堅教師を対象とした。いずれも教職歴10年以上の教師で,校内や地域で授業研究の中核となっている教師であった。各学校での授業研究会に参加し,授業場面や授業後の協議場面について,ビデオや筆記による記録を行い,対象教師に聞き取りを行った。対象教師が実践を振り返って記録化した報告も分析対象とした。なお対象教師には,収集した授業記録や教師の報告への考察をフィードバックし,やり取りしながら研究を進め,データ解釈にも活用した。 3.結果と考察:それぞれの教師について,授業を省察する中で生じた授業の捉え方の変化と授業の変化の点で分析を行った。その結果,授業の再構築にあたって,第1の省察が大きな働きを持つ教師と,第2の省察が大きな働きを持つ教師とにわかれた。前者については,他者の授業を見たときに子どもの学習過程に目を向け,実践の価値や意味を見いだすことが可能になり,自身の授業づくりにもそれが活かされていた。その背景には,教師としての学びの捉え返しがあり,熟達者からの知識・技能の伝達という学習モデルから,学習者の主体的な思考・判断・表現による学習へという,学習観の大きな転換があった。 後者については,自分の授業について参観者と様々なやり取りをすることで,子どもの思考過程に目を向け,授業のあり方を見直すことに結びついていた。単元構成や授業案の組み立てにおいても,子どもにとっての意味をより考えるようになり,単に知識を教えるのでなく,子どもと共に授業を作っていこうとするようになっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,危機におかれうる中堅期の教師が,授業の再構築と校内での役割変化という課題をいかに克服するのかを明らかにしようとしている。初年次である本年度はまず,授業の再構築という観点で,教師の授業研究における省察が危機克服にどのようにかかわるのかを検討する計画であった。研究計画の通り,本年度は研究対象となる教師を確保し,それぞれの学校の授業研究会に参加して授業実践や協議会の記録を収集することができた。また目的に照らして,他者の実践を見ることによる第1の省察と,自己の実践を他者の目から見直す第2の省察という観点で,それぞれの教師が授業を再構築していくプロセスについて分析を進めている。以上から,研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2年次は,計画通り,中堅教師が校内で中核となっていく役割変化という観点から,「他者の実践を介した自己の省察」という第1の形態の省察と,「他者の目を介した自己の省察」という第2の形態の省察がどのように危機克服に結びつくのかを検討していく。初年次と同じ学校で授業研究会に参加し,授業後の協議会での相互作用の質や校内での関係性の変化を検討していく。対象教師には聞き取りも行い,意識の変化についても検討していく。それらを通じて,他者と共に学ぼうとする第1・第2の省察のあり方が校内での関係性の構築や変化にどのように結びついていくのかを明らかにしたい。なお,対象教師の異動等で同じ学校に関与することが難しい場合には,ほかの小学校において調査を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を推進するための情報収集と研究経過に関する意見収集のために外国出張を予定しており,実際に国際会議に参加したが,旅費が予定よりも安価に抑えることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費としては,データ収集・整理・分析のために用いる,新しく開発されたパソコンやビデオ・ICレコーダ等の製品や消耗品の購入を行う予定である。旅費としては,複数の国内学会での研究経過報告・意見収集を予定しているほか,県外の学校への視察を目的に公開授業研究会等への参加を計画している。謝金としては,主にデータ整理を依頼する予定である。その他は,学会参加費等を予定している。
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