1.研究目的:学校における授業研究で生じる第3の省察の形態(昔の自己を介した自己の省察)が教師としてのアイデンティティの再構成にどのように関連するかを検討した。 2.方法:4つの小学校と2つの教育行政機関のいずれかに所属していた10名の中堅教師を対象とした。いずれも教職歴10年以上の教師で,校内で授業研究の中核となっている教師であった。本研究では主に,対象教師がそれぞれに実践を振り返って記録としてまとめた実践報告を分析対象とした。同時に,各教師の学校においては,校内の授業研究会に参加し,授業場面や授業後の協議場面について,ビデオや筆記による記録を行い,対象教師に聞き取りを行ってきたことから,これらのプロセスで得られたデータも解釈に用いた。 3.結果と考察:データを元に,授業研究を通して省察してきたことを振り返って過去の自分を見直すと,今では授業の在り方や校内での役割をどのように捉え直しているのか,分析した。特に,過去の授業研究での出来事や自己の振る舞いがどのように意味づけられているのかを検討し,教師としてのアイデンティティがどのように再構成されているのかに焦点を当てた。その結果,3つの在り方が見られた。第一に,いろいろな授業や保育を見て,その捉え方を転換していき,それぞれの学校や園の授業や保育を支えていく立場として,過去の自分には見えていなかったことが見えるようになったものと捉えられていた。第二に,研究主任の立場で校内研究を支えながら,あるいは研究主任を支える立場となりながら,それぞれが取り組んできた教科や分野の実践を統合的に捉え直し,これからの学校教育を担っていくものと捉えられていた。第三に,これまで経験した失敗や挫折,戸惑い等のつまずきを捉え直しながら,学習観を転換していきつつ,今の立場でできることに取り組み,かつての自己を超えていこうとするものと捉えられていた。
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