我々は、全身の健康維持に繋がると言われている歯牙保存を目指し、本研究を進めてきた。歯牙保存のためには、齲蝕に罹患した歯牙組織の再生が望まれる。現在、齲歯への再生治療法はないが、本研究では、細胞アンテナである一次繊毛による象牙芽細胞分化機構を明らかにした。 (具体的内容)(1) 象牙芽細胞の分化は、一次繊毛により制御される可能性が考えられる。(2) また、一次繊毛による象牙芽細胞分化制御は、一次繊毛特異的シグナルの一つである古典的WNTシグナルを介する可能性が強く示唆された。(3) 更には、この経路が翻って一次繊毛の形成、それ自体にも影響を与える可能性も示唆された。(4) 一方、ステロイドの一つであるdexamethasone (DEX)やβ-glycerophosphate (β-GP)は歯髄細胞を象牙芽細胞へ分化させることが知られているが、この効果が一次繊毛を介する知見を得た。具体的には、象牙芽細胞の一次繊毛はDEXやβ-GPによる刺激の受容を介して、何らかのメカニズムで、古典的WNTシグナルとは別の一次繊毛特異的シグナルであるHedgehogシグナル活性を抑制し、象牙芽細胞の分化を促進する可能性が強く示唆された。 (重要性)現在までに一次繊毛とステロイドの関連を検討した報告はほとんどなく、一次繊毛研究分野の視点から見ても、今後、新たなフィールドの展開が期待される。さらに、臨床で頻用されるDEXと一次繊毛との関連を詳細に解明できれば、歯牙組織の再生に留まらず、様々な組織の再生へ応用が出来ると考えている。 (意義)今後、我々の得た知識を基盤として齲蝕でダメージを受けた歯牙組織の新たな再生治療方法を開拓することが出来ると考えている。ひいては、残存歯数の減少によってもたらされる軟食傾向が疾患原因の一つと考えられている生活習慣病や認知症などの疾患を予防してゆく計画である。
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