研究課題/領域番号 |
25870280
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
有元 圭介 山梨大学, 医学工学総合研究部, 准教授 (30345699)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 歪みシリコン / 結晶欠陥 |
研究概要 |
本研究の目的は、圧縮歪みSi/SiGe/Si(110)構造中の結晶欠陥の形成過程を解明し、そしてそれを制御し、超高正孔移動度薄膜を実現することである。この構造では、圧縮歪みSi層中での正孔有効質量の低減が期待される。本研究では、Si層に応力を印加するために、歪み緩和SiGeバッファ層を用いる方法を検討している。歪み緩和SiGeバッファ層中にはマイクロ双晶構造や転位等の結晶欠陥が形成され、これらの密度や空間分布を制御することがデバイス応用上極めて重要である。我々は、結晶欠陥の様態は成長条件に大きく依存することを見出した。これまでの研究により、マイクロ双晶を積極的に導入することによりSiGe層を歪み緩和させる手法において正孔移動度向上効果が最も高まることが明らかとなった。そこで本研究では、より高い正孔移動度を実現するべく、マイクロ双晶の詳細な構造・形成過程や電気的特性に関する研究を行っている。研究の過程において、マイクロ双晶を多く含む試料においてpn接合の逆方向バイアス特性が劣化する傾向が確認されたため、原子間力顕微鏡による電流測定を行い、マイクロ双晶近傍の電気伝導性を調べた。この結果、マイクロ双晶近傍においても、電気伝導度は比較的低いことが明らかとなった。我々が作製したMOSFETの特性評価でも、大きな漏れ電流は見られておらず、良好な動作を示している。一方、MOSFETのゲート-チャネル間容量の測定結果から、マイクロ双晶がpn接合特性を劣化させている兆候が見られた。複数のデバイスを作製して更に調べたところ、この現象にはバラつきがあり、良好なpn接合特性が得られる場合も見られた。以上の結果は、マイクロ双晶の電気的特性は一様ではなく、pn接合特性を劣化させる部位がまばらに存在していることを示唆している。引き続き実験データを積み上げ、詳細を明らかにする計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究実施前の予備実験の段階において、MOSFETにおけるpn接合特性の劣化が見られていた。この現象は、本研究で最も重要である正孔移動度の評価に用いるデータに影響を及ぼすため、そのメカニズムの解明は極めて重要である。これまでにマイクロ双晶の表面トポグラフィーと電気伝導性との関係について有意なデータが得られつつあり、pn接合特性劣化要因の特定に向けて順調に研究が進んでいる。また、複数のデバイスを作製し、実験を繰り返した結果、pn接合特性の劣化の度合いが低いデバイスを得ることができた。この結果、信頼性の高い正孔移動度のデータが得られつつある。これらのデータは、本研究の目論見通り、圧縮歪みSi/SiGe/Si(110)構造において高正孔移動度が得られることを示しており、引き続きデータを蓄積しているところである。現時点では、良好なpn接合は確率的にしか得られていない、という状況であるが、今後はマイクロ双晶近傍の電気伝導特性を更に詳細に調べ、その発現メカニズムを解明し、pn接合劣化要因を積極的に減滅する方法を探りたいと考えている。既に熱処理による電気伝導特性の変化の調査を開始している。更に結晶成長にも工夫を加え、デバイス特性とデータの確度の向上を図る計画を進めている。平成25年度の研究においては、デバイス作製に必要なイオン注入装置が長期間故障していたが、現在は解決しており、順調に研究が進む見通しである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、特徴的な表面形状に関連する結晶欠陥がデバイス特性の劣化に関係することが示唆されている。特にpn接合特性は、デバイスの特性を向上させる上で極めて重要であるだけでなく、本研究においては正孔移動度の正確な評価のためにも重要である。そこで、表面トポグラフィーと電気伝導性との間の相関を、原子間力顕微鏡(トポグラフィーと電流の同時測定)および電子顕微鏡を用いて詳細に調べる。また、デバイス特性劣化要因を減滅するため、結晶成長時の欠陥形成の様態を、成長条件(基板温度、成長速度、層厚)に関する系統的な実験により明らかにする。基板温度は転位に働く摩擦力に、成長速度は部分転位の形成頻度に影響を与え、結晶成長中に形成される欠陥の様態に変化が現れることが期待される。これらの実験を通じてマイクロ双晶の近傍に性質の異なる結晶欠陥が形成されているという仮説を検討し、結晶欠陥形成メカニズムを明らかにする。また、固体ソース分子線エピタキシーによる結晶成長では、電気的に活性な点欠陥が形成されやすいこと、及びそれらを熱処理によって不活性化できることが、Si(001)基板上へのSiGeの結晶成長に関する研究から知られている。Si(110)基板上へのヘテロ構造の結晶成長においても同様の効果が期待される。そこで、熱処理によるヘテロ薄膜の電気伝導特性の変化を調べ、条件(温度、処理時間、雰囲気)の最適化を行う。これにより移動度測定の確度を向上させ、更なる高移動度化を実現する。
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