研究課題/領域番号 |
25870284
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
内山 和治 山梨大学, 総合研究部, 助教 (70538165)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 近接場光 / 希薄磁性半導体 / 量子井戸構造 / ナノ光電子デバイス / 励起移動 |
研究実績の概要 |
近接場光を介した励起移動を基にするデバイスは,電子の移動で動作する電子デバイスと異なり実際の電子の移動を伴わないため,高速,省エネルギーであり,さらに,ナノ空間にて非配線で完結して動作し,かつ多重に構成可能という特質を持つ.
この新規機能デバイスを金ナノ粒子と希薄磁性半導体量子井戸の組み合わせで試作し微視的に計測することを目指し,平成26年度は試料作製に引き続き,時間分解磁気フォトルミネッセンス測定により,近接場光を介した量子井戸間励起移動におけるスピン保存性について系統的に調べた.パルス光励起下で,希薄磁性量子井戸から数十nm離れた非磁性井戸における発光に,希薄磁性井戸からの励起移動由来の遅い成分がスピン選択的に現れることを確認した.この遅い成分に対応する発光の波長が,磁気シフトすることも確認された.これらの結果は,半導体量子構造間の近接場光を介した励起移動を基にしてスピンに依存する多重励起移動の経路設計と,外部電磁場による非配線制御の可能性を示す. 次に,同試料における最高9Tの高磁場下での走査型近接場光顕微鏡像をもとに,近接場光強度から井戸内の励起子エネルギー磁気シフトの典型的な空間スケールを求めた.井戸間の共鳴的励起移動も同程度のスケールで起きていることが分かり,多重二次元量子井戸構造における希薄磁性を通した励起移動チャンネル形成とその非配線制御につながる基礎的知見を得た. 励起移動の素過程解明に向けて単一の入出力ペアについて励起移動経路を可視化するために,量子構造間の距離や各構造の励起子エネルギーの設定についてより自由度の高い試料を新たに試作し評価した.具体的には,量子ドットをスピンコート法,および有機薄膜に担持させる方法により積層させた.量子ドット間隔20nm程度の量子ドット層の形成と発光を,走査型電子顕微鏡および時間分解フォトルミネッセンス法により確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近接場を介した励起移動の素過程の実験的解明と,励起移動の制御の2点について基礎的な研究を進めている.そのためにZnMnSe系希薄磁性半導体量子井戸構造に,入口として金コロイドを,出口として磁性原子を配置することで,入出力を持った近接場光デバイスを作製し,近接場光の空間分布を低温・高磁場で高い空間位置再現性を持って計測可能な走査型プローブ顕微鏡(SNOM)を用いて励起移動の過程と制御を観測,解析することを研究目的とした. 平成25年度に,半導体量子井戸構造に表面金属導電処理をすることなく近接場光分布を計測する手法を確立し,試料作製のネックであった金ナノ粒子と表面金属薄膜の絶縁処理が不要となり,当初想定した試料形状を大幅に簡素化することにつながる成果を得た. 平成26年度は,この成果を踏まえて試料表面の成膜から重点を移し,1 励起移動の舞台である半導体量子井戸構造における磁場依存励起移動の計測と,2 室温で動作し,かつ量子構造間距離や励起子エネルギーの関係を自由に制御可能な新たな試料の作製,の2点に取り組んだ. 1 においては時間分解フォトルミネッセンス測定と高磁場SNOM測定を行った.低温高磁場でSNOM計測を効率的に行うには,時間分解フォトルミネッセンス測定を用いて特徴を良く把握することが不可欠であり,その方法を確立した.SNOM計測により,二次元量子井戸における励起子エネルギーのゼーマンシフト量の空間分布を計測し,励起移動の基本スポットサイズを求めることが出来た.この結果をもとに金コロイドおよび磁性粒子の面密度を制御する.2 において,金微粒子および量子ドットを有機薄膜に担持させ,面内密度および面間距離を制御する方法の条件出しを進めた.この条件出しが完了すれば,希薄磁性半導体量子井戸では難しい計測を別途行う試料を設計・製作可能となり,研究の最終年度に向けて有用な方法である.
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度に当たり,これまでの成果をもとに以下の2つの実験研究に取り組む. 1 希薄磁性半導体量子井戸構造において,励起の入力として金ナノコロイド粒子を,励起の出力として磁性ナノ粒子を表面に適切な密度で配置し,単一の入出力ペアについての励起移動経路を走査型近接場光顕微鏡(SNOM)により可視化する.平成25年度に確立したスピンコートによるナノ粒子配置法の条件を用い,平成26年度に求めた励起子エネルギー磁気シフトの典型的空間分布スケールの数倍の間隔で粒子を配置する.効率的なSNOM測定のために,平成26年度に確立した方法で,測定試料について時間分解磁気フォトルミネッセンス計測を行い,励起移動の特徴的な磁場範囲,エネルギーを事前に把握する.外部磁場で励起子ポテンシャルの形状(典型的な深さを含む)を変化させ,励起移動経路の励起光強度依存を系統的に計測し,励起移動の素過程とその制御について基礎的知見を得ることを目指す. 2 量子ドット・金属微粒子積層試料を,有機薄膜等を用いた方法で作製し,励起移動の単一経路のSNOMによる可視化を目指す.この実験は,1 の実験が困難な状況になった場合のバックアップとして行うものである.具体的には,高エネルギー量子ドット溶液に,極微量の金微粒子と低エネルギー量子ドットを混ぜ,スピンコートで成膜することで,単一の入出力を有する近接場光励起移動系を形成する.平成26年度に,多層試料形成の基本的な手法は確立されている.平成25年度の装置改造により試料の表裏2方向から近接場光像を計測することが可能となっており,量子ドットを有機薄膜で多層形成し,層に垂直な方向の励起移動を計測することも同時に目指す.
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