最終年度は主に、安部公房脚本・勅使河原宏監督の映像作品『1日240時間』と、安部・勅使河原が協働を解消したあとに制作された勅使河原監督映画『サマー・ソルジャー』について、調査結果と考察をまとめた。 前者については前年度までに映像フィルムおよび音声素材をデジタルデータ化し、制作関係者(野村紀子氏・吉田栄子氏)からの聞き取りに加えて、脚本および草稿の分析を行い、作品の原型を明らかにした。その上で、技術者(IMAGICAウェスト社柴田幹太氏・村山英世氏)の協力を得て、四面スクリーン作品として復元することに成功した。こうした復元の経緯を報告するとともに、作品内容について同時代の世界的な芸術潮流を背景にした考察を行い、論文にまとめた。 後者については、勅使河原が安部の脚本から離れて制作した作品であるにも関わらず、安部との協働抜きには想定できない要素が散見されることを発見した。1960年代から両者の間で培われた様々なテーマや表現が、1970年代以降の勅使河原作品にも残響のように行き渡っていることを明らかにし、論文にまとめた。前年度までに発表した『友達』論と合わせて、1960年代までの両者の協働が、その後もリゾーム状にジャンルと国境を越えて潜勢的に増殖して行く実態を論じることができた。 また、勅使河原宏についてのドキュメンタリー映画を制作中のフランス人映画監督レオナルド・ウルダン氏より、安部公房と勅使河原監督の協働についてのインタビューを依頼され、撮影に応じた。申請時の計画にはなかった、第三者からの働きかけであるが、この映画はフランス、日本をはじめ世界各国で上映される予定であり、本研究課題の成果を広範囲に発信する好機となることが見込まれる。
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