研究課題/領域番号 |
25870289
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
金井 博幸 信州大学, 学術研究院繊維学系, 准教授 (60362109)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 運動効果促進ウェア / スポーツアパレル / エネルギー消費量 / 筋電図 / 動作解析 / 歩行 / コンプレッションウェア |
研究実績の概要 |
本研究では,生活習慣病の誘因である肥満症の予防・改善に資する効果的なアプローチの一つとして大いに期待される「運動効果を促進させるウェア」の実効性を科学的視点から検証し,その効果を適切に判定できる客観的な評価指標の構築に向けた計測・解析学上の課題や要件を見出すことを目的とする.平成26年度は「データ集積期・解析実施期」と位置づけて,以下の3つの主要な成果を得た. (1)エネルギー代謝,筋活動水準,歩容変化に関するデータの測定・解析:平成25年度に選定・調達したウェア上衣を着用してトレッドミル上を歩行した時の(a)ウェアの変形挙動,(b)筋活動水準,(c)歩容解析,(d)酸素摂取量について,それぞれ10名の被験者を対象とした測定を実施できた. (2)ウェアの変形挙動解析-酸素摂取量の因果関係解析:酸素摂取量を促進するウェアでは肩甲骨周辺における衣服変形が顕著に抑制されていることが分かった.この範囲の伸張率の平均値と酸素摂取量との間には有意な負の相関がみられた. (3)筋活動水準-歩容解析-酸素摂取量との因果関係解析:歩行周期の30-60%付近(上肢が前方に振出された状態)では,肩甲骨周辺の低伸長生地が伸長することで上肢の振出しに要する筋活動が促進された.一方,80-20%付近(上肢が後方に振出された状態)では、肩甲骨周辺の生地が伸縮することによって生じる張力が上肢を後方に振出す動作に作用して振出し角度が増大し、筋活動が促進された. 上記の3つの主要な成果より,歩行中の運動効果を促進するためのキー動作として,腕振り動作の促進が重要であり,これに寄与するウェア上衣の特徴として肩甲骨周辺の衣服変形挙動が顕著に抑制されていることがあげられる.また衣服変形が小さいウェアほど運動促進効果が認められることを明らかにできた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度までに測定装置の選定,調達,システム化に目途を立てることができたため平成26年度は「データ集積期・解析実施期」として計画していた測定および分析を終了することができた.また,当初計画では,平成26年度および平成27年度に計画していた「リバースエンジニアリングによるウェア設計アイデアの蓄積」に関しては,研究協力者との円滑な連携を実現したことにより平成25年度後半にはウェア下衣を試作した.また,平成26年度にはウェア上衣試作ができたことから,平成27年度においてこれらの検証実験を実施することができる.また,研究開始当初は,筋活動水準およびエネルギー代謝測定には,測定環境,条件,試料条件の統制のみで解決し得ない生理的要因(恒常性等)や心理的要因(日常生活との違いに伴う力み等)が誘因となって,調査対象となるウェア間に有意差が認められず,指針となり得る考察・結論が得られないことが懸念されたが,被験者毎にデータを規格化して相対的に比較するなどの解析手法を取り入れることで統計による検証についても実現できた. 以上の状況を鑑みて,本研究は申請当初の計画通り順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画のとおり,平成27年度は「試料検証期・総括期」と位置づけて,以下の2項目を順次実施する. ①試作運動効果促進ウェアの効果検証:平成25年度に試作したウェア下衣,平成26年度に試作したウェア上衣を着想させ,構築した測定装置および解析方法を用いて有効性の検証を実施する.これにより,運動効果を促進させるウェアとして必要な設計思想,すなわち,ウェア下衣に関しては股関節の屈曲・伸展に伴う衣服変形の抑制,ウェア上衣に関しては,肩甲骨周辺の衣服変形の抑制が必要不可欠な要素であるという仮説を検証することができると考える. ②エネルギー代謝-筋活動水準-歩容変化の因果関係解析の深化:エネルギー代謝の増大を誘引する歩行学的要素を特定することを目指す.具体的には平成26年度の研究成果により,歩行中の運動効果を促進するためのキー動作として,腕振り動作の促進が重要であることを明らかにできた.腕振り方向や速度などさらなる分析を行う.これにより高い運動効果をもつウェア設計のための基本的評価指標が提案できると考える. さらに,上記の2項目に加えて本研究で得られた成果の発信に努める.具体的には国内学会(繊維消費科学会を予定)において平成26年度までに得られた成果を報告し,国内の研究者や技術者から,有効性,実用性,妥当性に関する意見を得る.また,報文を作成する予定である.また,3年間の研究成果を総括し,今後の研究展開を計画する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は,本計画申請当初に予定していた国際学会(The 7th Textile Bioengineering and Informatics Symposium(香港))における成果報告のための経費として計上する計画であったが,渡航,宿泊,学会登録などに要する費用として不足するため,別予算を充当することした. 一方,本研究にかかわる実験の一部として女性被験者を対象としたデータの取得を目的に外部機関(富山県工業技術センター)にて実験を実施した.これに伴う出張交通費(日帰り出張)の経費を支出した. 以上の理由により,経費の差額として次年度使用額が発生した.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額とH27年度請求額をあわせて,実験に必要な消耗品,具体的にはディスポーザブル電極,筋電図計測用リード線,清浄用エタノール,脱脂綿,角質除去剤等を購入する予定である.また,報文作成の際の英語校閲料,報文が採択された際の論文掲載料を支出する予定である.
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