本研究では,生活習慣病の誘因である肥満症の予防・改善に資する効果的なアプローチの一つとして大いに期待される「運動効果を促進させるウェア」の実効性を科学的視点から検証し,その効果を適切に判定できる客観的な評価指標の構築に向けた計測・解析学上の課題や要件を見出すことを目的とする.平成27年度は「試料検証期・総括期」と位置付けて,以下の2つの主要な成果を得た. (1)第1に,運動効果促進を訴求点とする国内外で市販されている上下衣の計11種類のウェアに対して,述べ57人の被験者がウェアを40分間着用し,時速4km/hで12分間歩行した時のエネルギー消費量を測定した(計110トライアル).脂肪蓄積抑制効果が期待できるエネルギー代謝は,通常のウェアを着用した場合と比較して相対的に22%増加させることだと試算できるので,この値を肥満症改善のための要求レベルとした.これに対し,試験に供したウェア上衣では1.2~5.0%の増加,ウェア下衣では0~3.5%の増加となり,いずれも単一のウェア着用では要求レベルの充足に至らないことを明らかにした. (2)第2に,一層の運動効果を促進し得るウェアの提案を目標として,歩行時に観測される身体動作,すなわち上肢の腕ふり動作,並びに下肢の前後運動・股関節の廻旋運動に起因して生じる衣服変形を詳細に解析し,ウェアの変形に対して,動作拘束感を感じない程度の低伸長特性を有する複数のテープ状編物を地編物に対して層状に縫製したウェアを試作・提案した(上衣:平成25年度成果,下位:平成26年度成果).これらの試作ウェアの運動効果を検証した結果,縫製した編物の伸長率に応じて,歩行中のエネルギー代謝を最大で上衣4.9%,下衣11.3%増加させることを確認した(計101トライアル).
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