1.神経関連遺伝子を抑制する転写調節因子であるRestの非神経組織と神経組織における機能的役割の違いを、神経細胞と非神経細胞に分化する神経堤細胞において解析するため、神経堤細胞特異的なRestノックアウトマウスを作製した。このマウスは発生学的な異常を示さず、神経堤細胞由来細胞の発生や分化、増殖及び分布にも明確な異常は観察されなかったが、胃で食べものを貯留する機能が崩壊していること、生後消化管中にガスが充満し生後すぐに致死となることを観察した。神経堤細胞由来の腸管神経節細胞の機能異常を解析したところ、胃や小腸といった上位消化管でアセチルコリンエステラーゼ活性が失われていることを発見した。 2.in vivoで神経堤細胞におけるRestの機能を補償するため、Doxycycline(Dox)の投与によりRestの発現を修飾できるDox依存的なRest強制発現マウスを作製した。このマウスで、胎児期から成体においてDox投与によりRestを強制発現させても明確な形態的異常や致死性は観察されなかった。さらに、in vivoで神経幹細胞や神経堤細胞およびこれらに由来する細胞の分化、増殖、分布を解析したが、優位な違いは検出されなかった。 3.Restの発現の減少が幹細胞の未分化性維持に関与するため、Restの発現を制御することで、神経堤細胞の多分化能の喪失ないしは運命修飾や分化転換を試みた。これまでにRestが単独で分化した細胞の運命を修飾したり分化転換を誘導したりする事は報告されていないが、in vitroではRestの発現の有無により細胞の転写が変わることを観察した。しかしながら細胞を分化転換させるには至らなかった。in vivoでは神経堤細胞からの色素細胞の運命決定が影響され、Rest欠損により色素細胞前駆細胞の発生が減少する事を発見した。 これらの内容を2報の論文にて報告した。
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