研究の目的は,大きなストークスシフトを有し,希薄状態だけでなく凝集状態においても,近赤外領域に強い蛍光を示す有機蛍光色素の開発であった.我々は,これまでの蛍光色素の開発の中で,β-iminoenolate配位子を有するホウ素錯体が大きなストークスシフトを示すこと,ホウ素原子上に嵩高い置換基を導入することで,固体蛍光が発現するという実験結果を得ていた.これらの知見を元に,目標を達成するために,以下の色素を合成した.
①ピリミジン単核ホウ素錯体:AIEE特性などの興味深い蛍光特性を示すことを明らかにした.しかしながら,アセトニトリル中での最大蛍光波長(Fmax)が565 nm,ストークスシフト(SS)が113 nm,固体状態でのFmaxが629 nmと目標とする近赤外(Fmax > 700 nm)には蛍光波長がとどかなかった. ②ピラジン単核ホウ素錯体:Dual fluorescenceなどの興味深い蛍光特性を示すことを明らかにした.しかしながら,アセトニトリル中でのFmaxが655 nm,SSが169 nm,固体状態でのFmaxが672 nmであった.ピリミジン単核ホウ素錯体よりは長波長化に成功したが,目標とする近赤外(Fmax > 700 nm)には蛍光波長には至らなかった. ③キノイド型二核ホウ素錯体:近赤外領域に吸収(800 nm)に吸収を示し,またエレクトロクロミズムを示すこと明らかにした.しかしながら,今回合成したキノイド型二核ホウ素錯体は対称構造を有するために蛍光は示さなかった.今後構造を非対称にすることで,目標の達成が期待できる. ④ピリミジン二核ホウ素錯体:目標としていた,アセトニトリル中で大きなSS(174 nm)を有し,近赤外領域(Fmax: 710 nm)に蛍光を示し,尚且つ,固体状態で近赤外領域(Fmax: 709 nm)に蛍光を示すことを明らかにした.
|