1. 研究対象 本研究は,世界各国で展開されてきた「緩和ケア(Palliative Care)」の取組み内容を検証することで「どのように人生の終わりを迎えるか」という一般国民にとっても関心の高い論点について,医事法学的観点から,その妥当な在り方の提示を試みるものである。特に緩和ケアが発展してきた過程において見落とされてきた法的諸問題を点検し,未だ曖昧な内容を有する緩和ケアの将来的発展が及ぼすであろう社会的影響に関して,比較法的な検討を加える。そのために,終末期医療における法的・倫理的問題を対象として,国内外の研究者との情報交換をし,海外における議論を中心に,基礎的資料の収集及び整理を行った。 2. 実施内容 前年度より在宅医療に関する法的・倫理的問題を検討する研究会に所属して,実務的な観点からの問題状況に関する情報収集を行った。 また,我が国の終末期医療を巡る代表的な刑事判例として「川崎協同病院事件(最高裁平成21年12月7日刑集63巻11号1899頁)」の評釈を刑法判例百選Ⅰ総論(第7版)44頁以下で公刊した。この評釈は,結論として,我が国の議論では,あまり着目されてこなかった「義務衝突」という違法性阻却事由から,治療中止の場面における許容できるかを探るものである。現在,更に詳細な検討を紹介するべく,論文公刊を準備中である。更にドイツ語圏における高齢者虐待に関する論文を翻訳中の段階であり,この翻訳から,介護の現場における高齢者が置かれた状況を把握することが可能になるものと思われる。
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