1. 研究対象 昨年度から継続して,終末期医療における法的・倫理的・社会的問題を中心に,国内外の研究者との情報交換を実施した。また,海外における議論も含めて,特にドイツ語圏を中心に,基礎的資料の収集及び整理を行った。
2. 実施内容 先ず,2015年12月に施行されたドイツ刑法典の新条項「自殺の業務的促進罪(217条)」に関して当地で展開された議論を検証することにより,我が国において関連する論点への示唆を探ることが目指された。結論としては,自殺関与に関して可罰的な領域が生じたという意味でドイツにおける法状況は,日本に接近化したとも表現可能である一方で,その根底にある自殺に対する根底的な規範の在り方は,全く異なり得るという意味での注意も喚起された。この点に関しては,法学系雑誌(神馬幸一「ドイツ刑法における『自殺の業務的促進罪』に関して」獨協法学100号〔2016年9月〕横117-横149頁)で,その成果を公表し,また,学会発表(第28回日本生命倫理学会年次大会〔2016年12月3日〕大阪大学)も実施した。 また,ドイツ語圏における消極的臨死介助を巡る論点に関しても,引き続き調査を実施した。その成果は,学会発表(日本刑法学会第94回大会〔2016年5月22日〕名古屋大学)で公表した。更に,当地の間接的臨死介助を巡る論点に関しても,改めて検証を実施した。その成果は,法律系雑誌(神馬幸一「間接的臨死介助(安楽死)の正当化根拠」獨協法学101号〔2016年12月〕横125-横159頁)で公表した。これらの臨死介助を巡る議論においては,そこで臨死介助を許容するために,当地の正当化緊急避難規定が目的論的に解釈されている現状を示した。また,民法上の事前指示及び医療代理の制度が刑法上の解釈論にも影響を及ぼしている点も我が国への示唆として重要であることを指摘した。
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