前年度にて確立された高速DNAシーケンサーとinverse PCR法とを組み合わせた技術を用いて、本年度の研究計画にある「多様な腫瘍組織におけるト内在性レトロウイルス(HERV)部位同定解析」を行うため、昨年度に実施した肺腺癌の症例数を10症例に増やした他、さらに胃癌(組織型:管状腺癌および低分化腺癌)11症例、大腸癌(進行度:ステージIIIおよびIV)10症例、肺扁平上皮癌1症例、リンパ腫(HTLV陽性)1症例、奇形種1症例、肝細胞腺腫1症例についてLTR領域の同定を実施した。昨年度と同様、HML-2サブグループ間で高い保存性を示すLTR内にある配列を標的領域とし、さらにマルチプレックスによるシーケンスを実施して実験の効率化を図った。 用いた手法がどの程度の検出力をもつかを評価するために、常染色体上の挿入多型を示さないとされているHML-2_LTRを対象にその部位同定率を算出した結果、平均50.1%(標準偏差3.11%)であり、既知HML-2_LTRの約半数を検出することが可能であることがわかった。また、マッピングされたリード数が症例間で大きく異なるLTRが存在することがわかった。これは該当領域をカバーするcopy number variationの可能性がある他、これまで挿入多型を示さないとされていたLTRが実際には挿入多型性を持つ可能性があることを示唆している新しい知見である。新規LTR挿入部位についても複数の症例で複数箇所検出することができた。その新規挿入部位を挟むように設計したプライマーで同一個体の非腫瘍組織と腫瘍組織のDNAを用いてPCRを実施したが、両組織とも増幅は確認できなかった。これは腫瘍組織における挿入頻度が極端に低かったことが原因ではないかと考えられ、今後これら低頻度の挿入部位を同定する手法を開発して活性化HERVの発見に繋げたい。
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