研究課題
本研究では月マントルの組成の水平・垂直分布を観測的に制約するために,溶岩流の組成推定を行い,マグマ噴出年代との関係性を調査することを目的としている.これを実現するために,近年の各国の月探査計画によって蓄積された高解像度画像データを利用する.平成26年度においては,各溶岩流ユニットのチタン含有量の決定(昨年度からの継続),を計画していた.特に,月面のマグマ活動を調べる上でその活動期間の長さや活動の規模から重要地域とされている,嵐の大洋・雨の海領域における溶岩流のチタン量推定を予定していた.嵐の大洋・雨の海領域にある約110の溶岩ユニットについてチタン含有量を測定した.噴出年代との関係性を調査したところ,23億年前前後でチタン含有量が有意に変化していることが見出され,これはマグマソースの変化が起こったことを意味している.さらにその他の領域における組成変化の有無を調査するために,その他の領域の溶岩流ユニットについてもチタン含有量の調査を進めている.
2: おおむね順調に進展している
昨年度予定していた,嵐の大洋・雨の海領域における各溶岩流ユニットのチタン含有量の決定作業が終了し,その他の領域の解析を進めており,当初の予定通りか,それよりやや進展がみられる.これは,一連の解析手法を確立し,効率的な研究成果の生産のための研究領域の解析順を工夫したためである.具体的には,月全球において,(1) 溶岩流ユニットの定義,(2) 溶岩流ユニットのチタン含有量推定,を順に進める予定であったが,領域別に(1)と(2)の作業を行うことで同時に扱うデータ量を削減し,処理速度を向上させた.
平成27年度は,引き続き地形的,分光学的分類に基づく各溶岩流の地質ユニット境界の決定とチタン含有量の決定を行う.特に,月の裏側南半球に存在する太陽系最大級の衝突構造である南極ーエイトケン盆地の中にある溶岩流の解析を行う.これにより,月全球の解析を終了する.南極ーエイトケン盆地とその他の領域と比較することにより,マントル進化における巨大天体衝突の影響について議論する.また,月全球における噴出年代と溶岩流組成の関係性について調査し,月マントルの進化履歴について考察する.上記のせいかをまとめて,論文の執筆を行う.
当初予定していた月全球の解析からはじめるのではなく,解析領域をしぼって順に進めることで効率化をはかることとした.その結果,大量データ処理用のソフトウェアやハードディスクの購入,データ解析補助の人件費を次年度とした.
月全球データの解析が終了し,データを統合した解析を行う.大量データ処理に備えて,解析ソフトウェア,ハードディスクの購入と,データ解析補助の人件費,また成果の論文投稿費,成果広報用のポスター作成費に使用する.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 1件)
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