今年度は、研究期間の最終年度として、これまでの研究を総合した。合理的選択論は、経済理論の他の社会科学分野での総称として用いられ、1950年代から使用し始められた用語であるが、その中で他分野に影響を与えたアローやブキャナン、ベッカーを対象にその他分野への影響を分析した。 今年度の研究成果としては、次のものがある。まず、共著の著作物として、経済学史の専門教科書『経済学とはどのような学問であったのかーアリストテレスからセンまでー』(松嶋敦茂編)のうち、1章分の「合理的選択と社会性(ソーシャリティ)-K.J.アローの社会的選択論」を担当した。著書全体の目的は、経済学を科学史的な視点で分析することに照らして、各時代の科学と経済学のあり方を各章で取り上げることにある。本稿は、アローの社会的選択論を取り上げ、彼が考えた社会的選択論は、経済学の科学的研究を目指し1930年当時の新厚生経済学批判にあったことを説明した。 また、今年度は、「社会秩序と行為選択をめぐる史的検証-19世紀から20世紀の経済学を対象とした一考察―」(査読付、共著)『立命館大学産業社会学部論集』第53巻第2号、31-42頁も発表した。本稿では19世紀後半から20世紀にかけての経済学者ないし時代を3つ取り上げ、経済学とその周辺領域における社会秩序と行為選択のとらえ方について考察した。担当節では、アローが著した『社会的選択と個人的評価』(1951)を題材に、個人の選択問題が社会の選択に移行するまでのプロセスの問題点がどこにあるのか、また行為選択が社会的選択に移行するような社会体制としてアローが想定していたのは何であったのかを考察したものである。
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