研究課題/領域番号 |
25870324
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
笹野 順司 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40398938)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | エレクトロクロミズム / 酸化タングステン / 電解析出 / 湿式製膜 |
研究概要 |
エレクトロクロミズムを利用したデバイスは,着色および脱色時にしか電力供給を必要としないため,これからの省電力社会に適合した表示または調光デバイスとして注目を浴びている。酸化タングステン系の材料は,エレクトロクロミック材料として古くから研究されている代表的なものであるが,水素イオン供給源として用いられる電解液の封止と,応答速度の向上が課題となっている。本課題では,酸化タングステン系の材料を用いた全固体型デバイスを水溶液電解析出法により形成し,上記の課題を克服したデバイスの構築を目的として研究を行ってきた。 平成25年度には,酸化タングステン形成条件の検討を行った。具体的には電解液として用いる水溶液中のタングステン酸イオン濃度(0.0125-0.5 mol/L)が酸化タングステンの析出の有無,および,析出物の組成,結晶性,および,表面形態に及ぼす影響についての調査を行った。その結果,すべての濃度範囲で酸化タングステンおよびその水和物によって構成される薄膜の形成が確認された。また,タングステン酸イオン濃度が高いときには,非晶質なWO3(H2O)0.333が優先的に形成し,一方,濃度が低いときには正方形状のファセットを有するWO3.H2Oの結晶が優先的に形成されることが分かった。 また,これらの薄膜の光応答性を調査するため,水溶液中での光電気化学反応によって生じる酸化電流の変化を計測したところ,低いタングステン酸イオン濃度において形成された薄膜が,可視光照射に対して光応答を示すことが分かった。これは,結晶性の高いWO3.H2Oがn型半導体として機能していることを示している。 以上のことから,陽極酸化電解法によって酸化タングステン系薄膜の形成が可能な条件が確立された。また,タングステン酸イオン濃度によって異なる結晶構造を有した酸化タングステン系薄膜を形成できることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の計画では,陽極酸化法によるWO3.H2O析出反応機構の詳細な調査を行い,浴組成や電解条件などの製膜条件の制御により,エレクトロクロミック材料として機能するWO3.H2O薄膜の形成条件を確立することを目標に掲げていた。 これに対して実際の研究を進めるうちに,あるタングステン酸イオン濃度条件下では異なる結晶構造を有するWO3(H2O)0.333が形成され,予想していたよりも複雑な反応機構が存在する可能性が出てきたため,回転電極およびQCMによる拡散現象についての検討については計画通りには進まなかった。こちらの検討については,平成26年度も継続して行う。 一方,一連の研究の中で,新たに非常に有益な知見が得られた。それは,形成された酸化タングステン系薄膜が良好なn型光応答を示すことである。この結果は,析出した酸化タングステン系薄膜自身が陽極電流に対して整流性を示すために,析出反応が自己抑制されているということを意味している。そのため,陽極酸化電析中に基板に光照射を行うことにより,製膜速度の向上につながる新たな可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,前年度からの継続検討事項である拡散現象についての研究を行うとともに,光照射による酸化タングステン系薄膜析出速度向上についての検討を行う。 一方,エレクトロクロミック固体接合構造の形成およびその電気特性評価を行う。当初の計画ではWO3/ZnO接合構造の形成を予定していたが,陽極酸化電析によって形成された酸化タングステン系薄膜が,ZnO形成用の水溶液中で安定に存在出来ない場合があるため,ZnOに変わって酸化スズ(SnO2)薄膜を適用することとも同時に考えている。ここでは,製膜条件の確立された従来法である過酸化タングステン酸前駆体からの還元析出法を用いてWO3膜を形成し,そのエレクトロクロミック応答性および電気特性についての調査を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在までの達成度の項目において述べたように,回転電極およびQCMを用いた拡散現象の検討については予想していたよりも進捗が遅れることとなり,それらに関係する消耗品の購入量が計画を下回ることとなったために,次年度使用額が生じることとなった。 前年度において購入を行わなかった上記消耗品については,平成26年度において購入を行い,検討を進める。
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