研究実績の概要 |
本研究では,エレクトロクロミック材料として古くから研究されている酸化タングステン系の材料を水溶液陽極酸化電析法により形成し,さらに,無機固体電解質薄膜と組み合わせた全固体型デバイスを構築することを目的として研究を行ってきた。H26年度には,光照射による酸化タングステン被膜の析出速度の促進,固体電解質層として機能するSn(O,H)x被膜の陽極酸化電析,及び,酸化タングステン/Sn(O,H)x積層デバイスの構築に関する研究を行った。 H25年度に見出した酸化タングステン被膜の良好な光応答性に着目し,酸化タングステン被膜の陽極酸化形成時に光照射を行うことで,製膜中の大幅な電流増加を確認した。この電流値の増加が製膜速度を向上させることが期待されたが,製膜速度の上昇割合は,電流増加率よりもはるかに低いものであった。これは,水素イオンの拡散速度が極めて高いために,本手法で用いた低pH条件では十分な電極近傍での局所pH低下を引き起こせなかったことが要因であることが,理論計算によっても明らかとなった。 また,硫酸スズ(II)水溶液を陽極酸化することで,水酸化物を含む酸化スズ被膜(Sn(O,H)x)の形成に成功した。このSn(O,H)x被膜中には固体電解質層として機能させる上で必要な水酸化物が混入していることを赤外分光法により確認した。 さらに,従来型の還元電析法により析出させた酸化タングステン被膜とSn(O,H)x被膜の積層構造を形成したが,予想したような完全固体デバイスとしてのエレクトロクロミック応答は見られなかった。断面組成観察の結果,還元電析法により析出させた酸化タングステン被膜が多孔質であったため,酸化タングステンとSn(O,H)x被膜の混合組織となってしまっていたことが原因であることを確認した。 以上の知見は,無機全固体型エレクトロクロミックデバイスを実現するための基礎となる研究成果である。
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