研究課題
若手研究(B)
1.茎葉の成長を適切に制御することは、個体群内への光の透過量を確保することや倒伏による減収を回避する上で重要であるが、過剰に制御すると個体光合成量が減少して子実収量も減収する。子実収量への悪影響を及ぼさない制御レベルを明らかにするため、子実収量と開花期が同程度の2品種(フクユタカと美里在来)を使って様々な光強度条件下に開花期以降さらし、子実生産と開花期以降の光強度条件との関係を解析したところ、両品種とも自然光の約50%の光強度までであれば自然光100%に近い収量を得られることを明らかにした。2.水と温度に反応して茎葉の成長を制御する部位を特定するため、まずは地下部(根系)のみを温度制御する実験系を確立した。具体的には、ポット栽培したダイズのポット部分のみの温度を制御するため、ポット部分をビニルで覆ったダイズを任意の水温に設定したプール内に浸した。その結果、ポット内の温度を夏季高温時(日中のハウス内気温が40℃以上)には20℃、日中のハウス内気温が20℃を下回った秋季にポット内の温度を35℃に制御することに成功し、気温の影響を受けることなく地温のみを任意に制御することが可能となった。また、本実験系を使ってポット内の温度を制御しても茎葉の乾物重の変化が小さく、温度に依存したダイズ茎葉の成長制御に根系が関与する可能性が小さいことを確認した。このほか、植物体各器官の水の通導抵抗を測定するプレッシャーチャンバーの作成に成功したため、次年度より上記の実験系に組み込み、温度制御に伴う水輸送系の変化を葉の蒸散だけでなく植物体内の水移動の面からも解析する。
2: おおむね順調に進展している
計画調書には、該当年度にダイズにおける水チャンネル機能の非破壊解析システムの開発することを計画していた。これを実施するにあたり、一番の課題であったポット栽培したダイズのポット内(根系)の温度(地温)を気温の影響を受けることなく独立的に制御する実験系を確立させるため、該当年度は地温制御システムの開発に研究の重点を置いた。本研究では任意の水温に設定したプール内にダイズをビニルで覆ったポット部分のみを浸すことによって地温のみを制御するものであり、ポットを覆うビニルの素材やその際のポットへの灌水量、夏季高温時の冷水化の可否などのいくつかの検討事項があったが、これらの課題をどうにか該当年度内にクリアすることに成功し、かつ、地温制御しても地上部の成長は影響を受け難い可能性があること、すなわち、水および温度に依存したダイズ茎葉の成長制御に根系が関与する可能性が低いことを見出した。計画では、この際の個体蒸散量や葉の気孔開度の変化も同時に検討することを予定していたため、計画通りとはいかなかったが、代わりに次年度に予定していた水チャンネルによるダイズ茎葉の成長制御部位の特定に概ね成功しており、個体蒸散量や葉の気孔開度の測定も方法的にはすでに確立していることから、次年度にこれらをまとめて実施することは十分可能であり、全体的には当初の計画に大きな支障を出すことなく進んでいると判断している。
該当年度の研究によって、地温制御システムが完成するとともに水および温度に依存したダイズ茎葉の成長制御に根系が関与する可能性が低いことが分かってきた。次年度は、地温を制御しても茎葉の乾物重、個体蒸散量、気孔開度および根の吸水量は変化しないのか?また、それらは地温制御直後から変化しないのか否かについて検討する。また、水および温度に依存した水チャンネルの機能変化を解析するための水の通導抵抗を測定するためにダイズを水耕栽培し、かつ、時間に余裕が生じた場合には栽培中の水耕液の水温も制御し、水耕栽培においても根が茎葉の成長制御に関与しないのか否かについて検討する。次年度の研究遂行上の一番の課題は、ダイズを水耕栽培すること、およびそれを用いて植物体各器官の水の通導抵抗を確実に測定することであり、ダイズの水耕栽培そのものは過去の研究事例を参考にすれば技術的に不可能ではないと判断しているが、水の通導抵抗を測定に適した生育ステージを該当年度のポット栽培実験と同様にするか否かについて若干検討の余地を残す。また、水の通導抵抗を測定するための装置であるプレッシャーチャンバーの作成は既に済ませているが、茎葉内を通過する水の透過量を測定する方法はまだ確立しておらず、これらの点をクリアすることを次年度の一番の目的として研究を進める予定である。
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