研究課題
若手研究(B)
本年度は、研究計画に従い、野生型マウス(Wt)と脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)過剰発現トランスジェニックマウス(BNP-Tg)を用い、その代謝プロファイル、特に肝臓における表現型の検討を行った。また、ヒト培養肝細胞ラインであるHepG2を使用して、酸化ストレスによる細胞ダメージに対するナトリウム利尿ペプチドの作用を検討した。通常食負荷時にはWtとBNP-Tgで体重や体内の脂肪量、摂食量などに変化を認めず、肝臓の重量や脂肪含有量で明らかな差を認めなかった。60%脂肪食を負荷した際には、BNP-TgはWtに比較して明らかな体重増加の抑制を認め、同時にBNP-Tgでは脂肪肝の抑制も認めた。この際、BNP-Tgの肝臓ではWtに比較して脂肪酸不飽和化に関与するScd-1などの遺伝子発現が上昇しており、薄層クロマトグラフィーを用いた検討では、BNP-Tgで不飽和脂肪酸を側鎖に含む脂質が全体的に増加していることが推察されたが、この点に関しては未確定である。一方、BNP-TgとWtに対して四塩化炭素を投与して肝線維化の程度を確認したところ、BNP-Tgで肝線維化は有意に抑制されていた。しかしながら、両者の肝臓の脂質に関しては薄層クロマトグラフィーを用いた検討では有意な差は認められなかった。また、HepG2に対して、ANP、BNP、CNPの3種類のナトリウム利尿ペプチドを添加した際のメタボローム解析をGC/MSにて行ったところ、特にCNPで数種類の脂肪酸の低下傾向を認めたが、この点に関しては未確定であり、今後さらに検討を行う予定である。なお、過酸化脂質を含む脂質の解析に関しては、特に過酸化脂質の測定の困難さなどの問題もあり、現段階で網羅的な解析手法は確立できていないが、この点に関しては来年度もさらに検討を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
過酸化脂質の定量的解析など、本年度中には遂行できない部分もあったが、培養細胞を用いた検討など、来年度に行う予定であった検討を本年度中に一定の段階まで行うことができたため、総体としては概ね順調に進展していると考えている。
過酸化脂質の質量分析機を使用した網羅的解析手法を検討し、その手法を用いて、①45%または60%高脂肪食負荷時のWtとBNP-Tgの肝臓の過酸化脂質の変動の解析、②四塩化炭素やメチオニンコリン欠損食負荷時のWtとBNP-Tgの肝臓の過酸化脂質の変動の解析、等をまずは行う予定である。マウスで起こった変化が他の動物種でも起こりうるかどうかを評価するため、ラットを用いた検討を同様に行う。ただし、ナトリウム利尿ペプチドの過剰発現トランスジェニックラットは保持していないため、遺伝子改変動物ではなく、ANPおよびBNP投与を行う。ANP、BNPのラットへの投与は浸透圧ポンプを用いて腹腔内投与、もしくは静脈投与を行う予定であるが、NPの浸透圧ポンプによるラットへの腹腔内投与に関しては確立しているが、大量のNPを必要とするため、可能ならば条件検討の上、静脈内投与を行うことを検討する。ANP、BNP投与ラットに対して高脂肪食負荷やメチオニンコリン欠乏食負荷を行い、肝臓における過酸化脂質の変動を評価する。また、ナトリウム利尿ペプチドの肝細胞における酸化ストレスの抑制作用を検討するため、ヒト培養肝細胞HepG2にANP・BNPを添加したうえで過酸化水素を負荷し、Annexin V assayなどの方法によってナトリウム利尿ペプチドの酸化ストレスによる細胞障害への影響を評価する。
本年度は学会出張などが想定していたよりも少なく、またマウス管理費用なども予定より少なかったため、次年度使用分が生じたと考えている。来年度は質量分析機などの共通機器の使用が増加することが予想され、また、来年度に使用予定であるラットに関してはマウスよりも購入費用や管理費が割高になることから、次年度使用額に関してはこれらの費用に充当する予定である。
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Journal of hypertension
巻: 31 ページ: 2010-2017
10.1097/HJH.0b013e3283635789