研究実績の概要 |
前年度は、主として脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)過剰発現トランスジェニックマウス(BNP-Tg)を使用した検討を行ったが、BNP-Tgでは肝逸脱酵素(AST, ALT)の軽度の上昇が見られることが判明した。BNP-TgでのBNP過剰発現において、SAPプロモーターを使用しているために、BNP-Tgでは定常状態においても肝臓に何らかの異常が生じている可能性が考えられた。このため、遺伝子改変動物ではなく、より臨床応用に近いモデルであるナトリウム利尿ペプチド投与モデルにて解析を行うこととした。投与実験においては、BNPと共通の受容体を介して類似の生物学的作用を発揮する心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の腹腔内投与を行った。 murine ANPを浸透圧ポンプを使用して1.5μg/kg体重/分の容量で腹腔内投与を行ったところ、血圧の低下、尿中cGMPの上昇を認め、ANPの作用が確認された。 マウスに高脂肪食を6週間負荷した後に、1週間のANP投与を行ったところ、ANP投与群(A群)ではVehicle投与群(V群)との間に体重、肝重量、肝脂肪含有量には有意な差は認めなかった。両群の肝臓の脂質を抽出して薄層クロマトグラフィーを行ったところ、フォスファチジルコリン(PC)に差を認めたため、PCに関してLC-MS/MSにてより詳細な解析を行った。その結果、複数の分子種においてA群とV群で差を認めた。A群で上昇が大きかったものとしてはPC(20:2,20:4)、PC(18:1,20:5),PC(18:2,22:4)などがあり、逆に低下したものとしてはPC(20:2,22:6)、PC(16:0,17:0),PC(19:0,20:3)などがあった。全体的には、A群ではV群に比較してPC中の2重結合数が多い傾向にあった。これらの結果より、ナトリウム利尿ペプチドが食餌誘導性脂肪肝の細胞膜組成を変化させる可能性が示唆された。
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