研究課題/領域番号 |
25870344
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 宏樹 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 研究員 (90625302)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 種子散布 / キツネザル / 大型種子植物 / マダガスカル / アンカラファンツィカ |
研究概要 |
1.繁殖樹木の個体識別データベースの構築: 11月中旬から1月末にかけてマダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園の森林調査区画(30ha)にて、対象樹種の繁殖個体のデータベース構築のための生態調査を行った。チャイロキツネザルに種子散布を頼る大型種子植物のうち、当初の対象種だった雨季結実植物Protorhus deflexaと乾季結実植物Astrotrichilia asterotrichaに加え、キツネザルが果実を頻繁に利用する乾季結実植物Vitex beraviensis の個体(DBH>10cm)もナンバータグで識別し、サイズ測定、位置測定、葉採取(DNA試料用)、性別と繁殖状況の確認を行う調査を進めた。10haの調査を完了し、それぞれ324個体、243個体、114個体を確認した。 2.動物による種子散布率の評価: 動物による種子散布率を評価するには、結実樹木に種子トラップを設置して種子生産量を推定し、さらに定点観察と熱感知自動撮影カメラの設置によって動物に散布される種子量を推定する必要がある。動物による種子散布率を評価する平成26年度以降の本調査に向けて、平成25年度はこれらの調査手法を現地に適した方法で確立し、調査助手のトレーニングを行った。また、樹木の個体識別調査の際に、視界条件や繁殖状況などを考慮して定点観察に適した樹木個体の候補を絞った。 3.研究成果発表: チャイロキツネザルの採食パターン、移動パターン、対象樹種の遺伝子マーカー開発に関する研究の成果をまとめ、学術雑誌に論文を投稿し、5編の論文が受理された。チャイロキツネザルによる種子散布パターンの解析を行い、その結果をまとめて、マダガスカル東部ラヌマファナ国立公園で開催された国際原猿類学会(8月)、および岡山で開催された日本霊長類学会・日本哺乳類学会合同大会(9月)に参加し、発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.野外調査の状況: DNAサンプルとして使用する各樹木の葉の採取は、当初はパチンコ等を使用しての採取を予定しており、困難が予想されていた。しかし、樹高が低く、登りやすい形状の樹種であることから、ハシゴや高枝バサミを併用した木登りによって容易に葉を採取することができるため、樹木の個体識別およびDNAサンプルの採取が順調に進んだ。また、野外調査を行った11月中旬から1月末までの時期はA. asterotrichaは開花期、P. protorhusは結実期、V. beraviensisは結実期直後であったため、花や果実を確認しながら繁殖活動や性の判別を容易に行うことができた。 2.研究成果発表の状況: 11月中旬以降の野外調査を考え、当初は野外調査前に論文の執筆と投稿を行い、野外調査後の年度末に改稿と受理を目標としていた。しかし5編の論文は野外調査前に受理され、いずれも冊子もしくはオンラインで昨年度中に公開となった。そのため、次の成果発表として予定している霊長類全般による種子散布の役割に関してまとめる総説論文を予定より早く執筆を開始することができている。
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今後の研究の推進方策 |
1.繁殖樹木の個体識別データベースの構築: 平成26年度はアンカラファンツィカ国立公園の森林調査区画で対象樹種の個体識別を完了する必要がある。降雨が激しいと調査がスムーズに行えなくなるため、乾季の後半である10月中旬から調査を開始し、植生調査を進めていく。 2.動物による種子散布率の評価: 平成26年度は雨季結実樹種Protorhus deflexaの動物による種子散布率を評価する。昨年度に候補を絞った定点観察に適した樹木個体に対して種子トラップおよび熱感知自動撮影カメラを設置し、トレーニングを経た調査助手2名と定点観察を行う。対象樹種につき10個体を想定し、機材の準備を行う。 3.散布種子の定着成功に影響する環境要因の究明: 実生生存に影響する要因として、(a)げっ歯類および昆虫による食害及び二次散布、(b)乾季の乾燥、(c)上層の植生被覆による被陰、(d)リターの有無の影響を検証する。aの要因除去実験は林床の種子をメッシュ金網で覆う条件の実験区を設置して行う。メッシュ金網の実験区設置に必要な材料すでに購入済みである。b~eの実験は、降雨の影響や動物の侵入を防ぐためにキャンプサイトに設置するビニールハウス内で行う。ビニールカバーは日本から輸送する必要があるが、小屋の骨組みやプランターなどは現地で準備可能なことを確認した。実験区の準備はP. deflexaの結実が始まる前の10~11月中に行う予定である。 3.研究成果発表: 昨年度に参加した国際原猿類学会で研究者と意見を交換したところ、平成26年8月にベトナムで開催される国際霊長類学会でも参加することを強く勧められた。国外の研究者と共同で「環境変動に柔軟に対応するチャイロキツネザルの採食生態」に関する研究の成果を発表する予定である。
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