現在乳がん検診に用いられているマンモグラフィーは0.2mmの微小石灰化を検出できるが、乳腺組織も微小石灰化と同様に高輝度で描出されるため、乳腺組織が豊富な若年女性では微小石灰化の検出能が大きく劣化する。医用超音波は放射線被ばくがなく乳腺組織により石灰化の描出能が劣化することはないが、石灰化の検出限界は数mm程度であり、乳がんの早期発見に用いることは難しい。 若年女性を含めた安全・安価な乳がん検診実現のため、本研究では適応型信号処理と周波数領域干渉計法を用いた高精度超音波微小石灰化描出法を開発した。本開発手法は信号処理で焦点形成するため任意の距離に焦点を形成可能であり、また、適応型信号処理であるCapon法を用いることにより雑音や微小石灰化以外の組織エコーを選択的に抑圧できる。さらに、微小石灰化エコーの周波数特性に注目し、組織エコーを効率的に抑圧することに成功した。 開発した微小石灰化描出法の有効性を調べるため、ゼラチンブロックに直径0.2mmの微小ガラス球を包埋した微小石灰化ファントムを作成した。商用の医用超音波診断装置で微小ガラス球エコーを取得し、白色雑音を付加することで乳房内微小石灰化エコー信号を模擬した。従来のB-mode像上で微小ガラス球エコーが雑音に埋もれ検出できない条件下において、開発した手法により微小ガラス球を選択的に描出することに成功した。また、本研究で開発された信号処理法が骨伝導波の同定など他分野へ適用可能であることを示した。 本研究により、適応型信号処理を用いることにより従来の超音波画像で検出できない直径0.2mmの微小石灰化が描出できることが示唆された。この研究結果から、適応型信号処理と周波数領域干渉計法を用いた信号処理を用いることにより、マンモグラフィに近い検出感度を有する超音波乳がん検診法が実現可能であることが示された。
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