ブータンにおいて、高齢者ケアを家族、近隣のコミュニティーのニーズに沿いながらいかに持続可能な形で地域のプライマリーヘルスケアの中に組み込むかという課題に取り組んできた。ブータン保健政策の柱の一つとして毎年ブータン各地方を回りTraining of Trainers(ToT)を続けてきたが、本年度は、9月にチュカ県ゲドゥにおいて、チュカ県、ハ県、パロ県、サムチ県、ティンプー、タシガン県、トンサ県より30数名の保健スタッフが集い、ToTを行った。これでブータン20県すべての県を網羅し、のべ百名を超える協力者を養成してきたことになり、その都度最前線で働く現地医療スタッフと話し合いを重ね、県レベル、中央省庁の意見と調整しながら、現状に即したやり方に改変してきた。また、12月にはブータンより4名を招き、我が国の高齢者ケアの現状を共有したほか、平成29年3月には保健省より主任企画官タンディン・ドルジ氏を招聘した。これらの活動を通して、ブータンの高齢者ケア計画は、国の保健政策の柱の一つとして着実にブータン全土に広がりつつある。さらに、本年度は、高齢者の市中肺炎の重要な起因菌となるレジオネラ属菌の調査も行った。ブータンのアスファルト路上から検体を採取し、比色系PALSAR法という新しい方法を用いて、レジオネラ属菌の16S rRNAを検出し、筆頭著者としてヒマラヤ学誌に英文で投稿し採択された。これは我々の知る限りブータン初のレジオネラ属菌の検出である。レジオネラ属菌は重症市中肺炎の重要な起因菌であり、レジオネラ症の疫学上、貴重な一歩だと考える。これは共著者に異国、異分野の研究者、異国の行政官が入った超学際的国際共同研究でもある。
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