本年度は、研究課題(1)「能動的に提案を行うエージェントとのインタラクションの分析とモデル化」と研究課題(2)「異なるエキスパートとして協調作業を行うHAIの分析とモデル化」について、前年度までの研究成果の融合を目指した。 研究期間全体を通して、(1)については、対話のリズムを作るエージェント発話の応答時間と間隔、対話の発展における発話内容の粒度の適切な変更(随伴的発展と呼ぶ)が、視座協創の端緒である、相手の提案から自らの視座の潜在的な変更を促し、心的負担を軽減することが、主観報告のみならず、生理指標による計測結果からも示唆することができた。(2)については、相手の意図を推定しながら協調作業を行う必要がある場面において、相手と自分の重視要因を循環的につないだネットワークに基づいて意思決定を行うことで、行動調整における煩わしさや意図が合わないことによる不満を抑えられることを、実験的に確かめた。 さらに、実験期間中に追加的に明らかになった、インタラクション参加者の能動性とタスクへのコミットメント向上に関する問題を、人間の心的姿勢、特に「志向姿勢」の問題と捉え直し、それを踏まえて、(1)で明らかとなった随伴的発展と、(2)で開発された循環的意図推定の手法を組み合わせた。エージェントとの協調的なインタラクションを必要とするタスクにおいて、エージェント側が人間の持つ目的を考慮して行動決定の基板となる重視要因順位を推定することで、人間側もエージェントの目的を尊重する行動が誘発されることを、実験的に確認することができた。 本研究の始めに掲げた、重視要因順位をインタラクションを通じて動的に確立する手法として、循環的ネットワークを用いた手法を提案し、追加的な課題である「志向姿勢」誘発を踏まえた形で、エージェントと協調的タスクを遂行する際に有用な手法であることを実験的に確かめることができた。
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