本研究では,リン元素含有の有機微結晶さらにはセルロース系微結晶を特殊磁場下で三次元配向させ,これを環境調和型ポリエステルのエピタキシャル成長の核とすることで,高度に制御された異方性をもつ環境調和型ポリマー材料の創製と構造解析・機能開拓を試みた.当初の研究計画に基づき研究を遂行した結果,平成27年度末までにおいて下記の成果が得られた. ポリL-乳酸(PLLA)の結晶核剤として,新たにクエン酸亜鉛(ZnCit)を選択した.まずZnCit微結晶のみで三次元磁場配向化を試みたところ,これまでのフェニルホスホン酸亜鉛(PPAZn)よりも高配高度での三次元配向化に成功した.次に,ZnCit/PLLA複合フィルムにPLLA溶融下にて8Tの各種磁場(静磁場,回転磁場,変調回転磁場)を印加した.得られたフィルムについてX線回折測定を行った結果,静磁場および回転磁場を印加した場合には,これまでのPPAZn/PLLA系よりも高配高度でPLLAの一軸配向化が達成されていることが分かった.すなわち,磁場配向化した核剤表面からの結晶成長による,PLLAの配向制御の効果はZnCitの方が高いと言える.さらに,変調回転磁場を用いるとPLLAの間接的な三次元配向化も可能であることが分かった. バイオマス由来の結晶化核剤としてホヤセルロースを選択し,酸加水分解後に表面のシリル化処理を行い,シリル化セルロース/PLLA複合フィルムを作製した.まず8T静磁場下で一軸配向したセルロース表面からのPLLA結晶成長の誘起を試みたが,セルロース,PLLAとも配向しない結果となった.ホヤ由来の結晶はアスペクト比が大きく,8Tの磁場では高粘度の溶融PLLA中にて配向させるのに不十分であったと解釈される.今後,用いるセルロース結晶を再検討するとともに,より強磁場下での配向実験を行う予定である.
|