研究課題/領域番号 |
25870363
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
今城 正道 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (00633934)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腸上皮幹細胞 / パターン形成 / 細胞移動 / Hippoシグナル伝達 / YAP / 生体内遺伝子導入法 / Eph/ephrinシグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、腸上皮幹細胞が活発に移動し、ニッチ細胞であるパネート細胞とモザイクパターンを形成する機構の解明を目指している。今年度は先ず、FRETバイオセンサーによるRhoファミリータンパク質活性の測定を試みた。しかしながら、十分な量のバイオセンサーを発現させることや同一細胞の追跡に困難があり、年度内に解析が終了しなかった。これについては、来年度も引き続き実験を行い、条件を改善していく予定である。一方、in vivoで幹細胞移動を研究する手法の開発も同時に行い、この点については予想以上の進展があった。初めに、センダイウイルスエンベロープを用いることで、生きたマウスの腸上皮に効率的に遺伝子を導入する手法を開発した (Imajo et al., 2014, Protocol. Exchange)。この手法は、腸上皮において多数の遺伝子の機能解析を短期間に行うことを可能とし、実験計画で予定していた腸上皮オルガノイド移植法よりも有用であると考えられる。実際に、この方法を用いて申請者らはHippoシグナル伝達経路が幹細胞機能の制御に重要な役割を果たすことを解明した (Imajo et al., 2015, Nature Cell Biology)。興味深いことに、Hippo経路のエフェクターであるYAP-TEAD複合体の阻害は、パネート細胞と幹細胞のモザイクパターンを損なった。また申請者らは、細胞によるパターン形成に重要な役割を果たすEphrin-Ephファミリー遺伝子(EphA4, ephrin-A3)が幹細胞特異的に発現すること、YAP-TEAD複合体がこれらの遺伝子の発現を正に制御することを見出しており、YAP-TEADはこれらの遺伝子の発現制御を介してモザイクパターン形成を制御するのではないかと考えている(2014年6月、第66回日本細胞生物学会大会において発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25、26年度に行った研究により、パネート細胞から分泌されるシグナル因子がモザイクパターン形成を制御すること、Hippoシグナル伝達経路のエフェクターであるYAP-TEAD複合体の機能がモザイクパターン形成に重要であること、YAP-TEAD複合体はEphrin-Ephファミリーの発現を制御すること等が明らかになった。また、生きたマウスの腸上皮に特異的に遺伝子を導入する方法の開発にも成功しており、この手法を用いてさらに研究が進展することが十分に期待できる。これらの点については予定よりも研究が進展しており、平成26年度に論文(Imajo et al., 2014, Protocol Exchange; Imajo et al., 2015, Nature Cell Biology)および国内学会の招待講演(第66回日本細胞生物学会大会)において成果を発表した。Rhoファミリータンパク質のFRETイメージングによる活性測定は予想よりも時間を要しているが、本研究課題は既に一定の成果を挙げており、順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25、26年度に得られた成果をもとに、腸上皮幹細胞の移動とモザイクパターン形成を制御するシグナル伝達の流れを明らかにすることを目指す。先ず、25年度に同定したパネート細胞に由来するシグナル因子(Notchリガンド、EGF等)と、26年度にモザイクパターン形成を制御する因子として同定したYAP-TEAD複合体の関係について検討する。例えば、EGFは他の組織においてはYAP-TEAD複合体の活性を促進するという報告もあり、これらの機構が腸上皮においても働いているか調べる。また、26年度にYAP-TEAD複合体の下流で制御される因子として同定したEphrin-Ephファミリータンパク質が、幹細胞の移動とモザイクパターン形成に関与するか検討する。同時に、Rhoファミリータンパク質の活性がこれらのシグナル伝達経路によってどのように制御されているか検討し、幹細胞移動を制御する一連のシグナル伝達の流れを解明することを目指す。この研究の過程では、腸上皮オルガノイド培養法とマウス腸上皮への遺伝子導入法を必要に応じて使い分けて、in vivoとin vitroの実験系の両面からバランス良く研究を遂行していく予定である。また、幹細胞移動を制御する機構が十分に解明された場合には、実験データを再現する数理モデルの構築にも挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Rhoファミリータンパク質のFRETイメージングの条件検討に予想よりも時間が掛かったために実験に用いた腸上皮オルガノイドのサンプル量が減少し、それにより培養試薬等に掛かる費用が減少したことが主な原因である。
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次年度使用額の使用計画 |
FRETイメージングの条件検討を引き続き行い、適切な条件が設定できた段階でサンプル量を増やして解析する予定である。その際、腸上皮オルガノイドの培養に必要な試薬を購入する予算として使用する。
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