研究実績の概要 |
本研究では、腸上皮幹細胞が活発に移動し、ニッチ細胞であるパネート細胞とモザイクパターンを形成する機構の解明を目指した。まず、オルガノイド培養法を用いた実験から、パネート細胞から分泌されるEGF, noggin, notchなどの因子が幹細胞の移動を制御する因子として重要であることが分かった。これらの因子の下流で様々なシグナル伝達経路の活性が変化し、それにより幹細胞特異的な遺伝子発現パターンが確立されることで、幹細胞移動が制御されていると考えられる。候補となる種々のシグナル伝達経路のうち、申請者らは特にHippo経路が重要な役割を果たすことを見出した。具体的には、Hippo経路のエフェクターであるYAP-TEAD複合体の阻害により、幹細胞移動が異常となり、幹細胞とパネート細胞のモザイクパターンが乱れることが分かった (2014年6月、第66回日本細胞生物学会大会において発表)。最終年度の研究から、YAP-TEAD複合体の活性が幹細胞内で高く、幹細胞の維持に必要であること、YAP-TEAD複合体の阻害は幹細胞数を減少させることを明らかにした (Imajo et al., Nature Cell Biol., 2015)。従って、YAP-TEADの機能は多岐にわたるものの、幹細胞移動の制御もYAP-TEADによる幹細胞の維持に重要な働きをする可能性がある。また、YAP-TEAD複合体は、幹細胞内で細胞移動の制御に重要な役割を果たすことが知られているEphrin-Ephファミリー遺伝子(EphA4, ephrin-A3)の発現を誘導することを明らかにした。これらのことから、幹細胞内ではパネート細胞由来の分泌因子の下流でYAP-TEAD複合体の活性が上昇し、EphA4とephrin-A3の発現が誘導され、その結果Eph-ephrinを介した幹細胞同士の反発作用により幹細胞とパネート細胞のモザイクパターンが確立されると考えられる。以上のように、本研究により腸上皮における幹細胞移動を制御する機構の一端が明らかになった。
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