「絵を描くことの進化・発達的起源およびその認知的な基盤」についての研究を発展させるとともに、物を見て描くときのデッサンの方法論について、認知心理学からの検討をおこなった。 代表者らはこれまで進化の隣人であるチンパンジーを研究対象としてきたが、今年度は、過去30年間に京都大学霊長類研究所で実施されたチンパンジーの描画作品について、スキャナでとりこみ、作者や画材などの記録を整理して、デジタルアーカイブ化の準備を進めた。またチンパンジーの描画行動が食物報酬などを必要とせずに自己報酬的におこなわれることから、その動機づけ、つまり「おもしろさ」の性質について、昨年度おこなった物遊び研究の解析を進めた。さらに、人間が描くことの認知的な基盤について、多角的な視点から考察するために、先史時代の洞窟壁画や、アール・ブリュット作品についての調査、資料の収集をおこなった。現代の作家のライブペインティングの見学やインタビュー、資料の収集など、作品が生まれる背景やそのプロセスについての調査もおこなった。見て描くときの認知的なプロセスについての解析結果とともに、これらの考察内容を現在論文にまとめている。 これまでの研究成果から、教育場面における描画や表現活動の意義を論じるとともに、具体的な実践への反映方法を検討し、保育士や教員養成課程の学生にむけた造形表現や図画工作の教科書等に執筆した。保育士や図工・美術教育の専門家などを対象とした講演をとおして、意見交換や議論もおこなった。 また科学館や美術館、歴史資料館、高校などでの講演や、一般向けの雑誌等への執筆をおこない、研究成果のアウトリーチ活動にもつとめた。
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