本研究の目的は、動物のコミュニケーションに見いだされる前言語的能力とヒト言語能力を比較することで、ヒト言語の進化に関する知見を得ることを究極的な目的とし、鳴かないトカゲ類が鳥類などの警戒声を「盗み聞き」する現象を利用して、トカゲ類の音声認知に関する知見を得ることを目的としている。 平成27年度は、鳴かない動物においても、学習の成立しやすい音声と、そうでない音声が存在するのではないかという仮説を検証した。調査では、マダガスカルに生息するキュビエブキオトカゲにおける「盗聴行動」の学習発達を利用して行った。鳥類は「さえずり」や「警戒声」など、音声の機能の違いによって、音響的に異なる音声を用いる。そこで、この音声の違いによって、爬虫類の音声学習の成立のしやすさにも違いがでるという仮説のもと、実験をおこなった。実験では、熱による嫌悪刺激を鳥類の「警戒声」の再生直後に提示するグループと鳥類の「さえずり」の再生直後に提示するグループに分け、逃避行動の発現によって、学習の成立のしやすさを検証した。その結果、熱による嫌悪刺激と音声の学習が成立する証拠は確認できなかった。この結果は、ブキオトカゲの音声学習を否定するわけではない。「警戒声」のグループの個体は、「警戒声」によって、警戒行動が増えることが確認されており、実験では、そもそも警戒しているところの嫌悪刺激が提示されるので、学習する必要性がなかったことが示唆される。
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