本研究ではポストリチウムイオン電池の候補として注目され始めているナトリウム電池の固体電解質材料となることが期待されるNa-P-S系に着目し、そのイオン伝導メカニズムの構造学的研究を進めてきた。 高純度の不活性ガス雰囲気下でのメカニカルミリング処理によって(Na2S)x(P2S5)100-xガラス試料を合成し、さらにx=75のガラスについては、280°Cでの熱処理によって、ガラス状態を経由することでしか合成できない、準安定な結晶相を得ることに成功した。得られたガラスおよび準安定結晶試料について、交流インピーダンス測定による電気伝導特性の評価を行い、高輝度放射光施設SPring-8において高エネルギーX線回折実験を、大強度陽子加速器施設J-PARCのパルス中性子施設MLFを利用して中性子回折実験を行った。得られた回折データの解析は、準安定結晶試料についてはRietveld解析によって、ガラス試料については二体分布関数の導出による実空間での解析(PDF解析)によって構造解析を進めた。そして、Rietveld解析およびPDF解析によって得られた構造情報を元にして、X線・中性子回折データを相補的に利用した逆モンテカルロモデリングを行い、実験データを再現するガラスおよび準安定結晶の3次元構造の可視化に成功した。 可視化された3次元構造を詳細に解析した結果、Naイオンが周囲をS原子によって囲まれたNaSx多面体が多数形成されており、さらに、Naイオン濃度が増加し、イオン伝導性の高い試料になるにつれ、中心にNaイオンを収容できる空間を持ったSx多面体も多数形成されていくことが明らかになった。イオン伝導の際にNaイオンはNaSx多面体からSx多面体を経由して移動していくと考えられ、材料中のイオン伝導経路の視覚化にも成功した。
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