当研究課題ではArfファミリー低分子量G蛋白質の構造変換分子機構を、特に溶液NMR法から得られる広範なダイナミクス情報に着目して明らかにすることである。低分子量G蛋白質はGTP結合型とGDP結合型で立体構造を変化させることにより細胞内分子スイッチとして働く。本研究課題提案者は、その構造変化の基盤となるGTP-like - GDP form間構造転移機構が、蛋白質コア領域にゆらぎとして内在していることを明らかにしていた。当研究課題の成果として、所属研究チーム独自技術である無細胞蛋白質合成システムを活用することで、タバコおよびヒト由来Arl8蛋白質の調整に成功した。そして、これらのGTP-like - GDP form間構造転移をミリ‐マイクロ秒オーダーのゆらぎが解析できるR2緩和分散法の測定、解析を行った。当研究課題ではGTP-like - GDP form間のような大きな構造変化を起こすミリ‐マイクロ秒オーダーのダイナミクスが、局所的な揺らぎを反映するより速いナノ‐ピコ秒オーダーのダイナミクスとどのように関連しているかを明らかにすることを目的の一つとしている。蛋白質において、このナノ‐ピコ秒オーダーのダイナミクスは、Model-free解析法と呼ばれる方法が広く使われてきた。しかしながら、本研究提案者は、この方法は希薄溶液でのみ有効であり、それ以外では蛋白質分子同士の干渉に由来する修正が必要なことを見出した。実際の細胞内は分子混雑環境にあり、蛋白質分子同士の干渉は不可避である。そこで、問題を克服した新規拡張Model-free解析法を開発した。平成27年度においては、これをArl8蛋白質に適用するべく、新規拡張Model-free解析法のさらなる開発と検討を行った。これにより、蛋白質の濃厚溶液中での振る舞いが明らかになりつつある。今後、実際にArl8蛋白質に適用することで、その構造変換分子機構が細胞内を志向した環境を考慮した系で明らかになると期待できる。
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