研究課題/領域番号 |
25870379
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小寺 正明 東京工業大学, 生命理工学研究科, 講師 (90643669)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 化学生態学 / 生物間相互作用 / 昆虫 / 植物 / オミックス / 遺伝子 / 化合物 / 情報学的基盤 |
研究実績の概要 |
多様な昆虫ゲノム比較のための基盤形成へ向けて、ふたつの方向から研究を進めた。ひとつは次世代シーケンサーMiSeqを用いた鱗翅目昆虫のシーケンシングであり、もうひとつは次世代シーケンサーデータ公共レポジトリSequence Read Archive (SRA) を用いた化学生態学的応用のための基盤構築である。 まず、MiSeqによる昆虫遺伝子の新規シーケンシングでは、ナミアゲハとナガサキアゲハのゲノム、およびナミアゲハ成虫触角、ナミアゲハ成虫前脚、キアゲハ成虫触角、キアゲハ成虫前脚のトランスクリプトームを解析し、ナミアゲハとキアゲハからそれぞれ約3万の遺伝子配列を得た。 次に、化学生態学的応用のための基盤構築を行なった。上に述べた昆虫遺伝子の新規シーケンシングに加え、SRAに登録してある昆虫トランスクリプトームデータおよびNCBI Assemblyに登録してある56種の昆虫ゲノムデータを収集した。また、昆虫・植物間相互作用として捕食-被食関係に着目し、日本に生息する昆虫の寄主植物(食草)について、複数の日本語の書籍から情報収集と整理を行ない、545昆虫種と1922 植物種の間の3435 関係を収集した。また、KNApSAcKデータベースおよびPherobaseデータベースを用いて、788昆虫種に相互作用する1725植物種由来の791化合物を収集した。これら昆虫遺伝子データ、植物化合物データ、昆虫植物間相互作用データから、学名によるリンク付けを行なうことにより、化学生態学研究のための情報学的基盤データベースを構築した。 これらの統合データの活用例として、草食昆虫の生態学的位置づけやその進化に関する考察、そして草食昆虫における植物化合物代謝の候補遺伝子の情報学的予測を行なっており、現在論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ナミアゲハおよびナガサキアゲハのゲノムシーケンシングおよびアセンブリを行なったが、データ品質の指標であるN50等の値がなかなか向上せず、実験および計算の条件を検討中である。ナミアゲハについては、今年度11月頃に、別グループによるゲノム配列が発表されたため、本研究で独立にシーケンシングをする必要性は少なくなったが、食草選択に重要と考えられている前脚および触角のRNAシーケンシングデータは豊富に得られた。化学生態学研究のための情報学的基盤の開発に関しては、既に種間比較解析が可能なだけのデータが集まっており、おおむね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
上述のMiseqによるデータに加え、現在までに、ナミアゲハ、キアゲハ、ナガサキアゲハ、アオスジアゲハの4種のHiSeqによるゲノムシーケンシングデータが得られているので、引き続いて、Platanusゲノムのアセンブルを行なう。またトランスクリプトームデータを用いてTrinityとAugustusによる遺伝子予測を行なう。これら近縁種の食草の違いの情報は入手済みなので、食草選択に重要と考えられる遺伝子の候補を比較ゲノム解析により導きだす。また、化学生態学研究のための情報学的基盤データベースに対して、データ量およびユーザビリティの向上を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンサーによって得られた遺伝子配列をコンピュータ上でアセンブルした結果のクオリティを示すN50等の値が当初予定していたより向上しなかったので、条件検討に時間を要し、実験用試薬の購入のタイミングを次年度まで遅らせることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
年度は遅れたが、予定どおり次世代シーケンサーによる遺伝子配列解読を行なう。
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