古細菌は、リボソーム小サブユニットの分子系統解析から提唱された生物の三ドメイン説において、真性細菌、真核生物と並ぶ第三の生物群を構成している。古細菌の膜脂質は、sn-2位および3位にアルキル基がエーテル結合した構造をしており、sn-1位および2位に脂肪酸が結合した真性細菌・真核生物の膜脂質と大きく異なっている。本研究では、古細菌膜脂質分子の生合成および動態を解明することを目的とし、脂質分子中に蛍光発色団を導入したケミカルプローブの合成を行った。 例えば、sn-1位を保護したグリセロール誘導体とフィタニルメシレートを水素化ナトリウムの存在下ジメチルスルホキシド中で反応させ、sn-2位および3位にフィタニル基を結合した後、sn-1位の保護基を除去し、tert-ブチル=テトライソプロピルホスホロアミダイトとBoc化したエタノールアミンより調製したホスホロアミダイトを用いて極性頭部を導入し、酸性加水分解によりアーキチジルエタノールアミンを得た後、これとNBD-Clを反応させることで、目的とする、極性頭部に蛍光標識(NBD基)を導入した脂質プローブを合成することができた。また、sn-2位と3位に異なるアルキル基を導入する過程で、sn-1位をp-メトキシベンジル基で、sn-3位をトリチル基でそれぞれ保護したグリセロール誘導体のsn-2位のアルキル化が必要であったが、この場合は水素化ナトリウム/ジメチルスルホキシド系は有効では無い一方で、粉末状の水酸化カリウムの存在下還流ベンゼン中で反応させることで、sn-2位にアルキル基を導入可能なことを見出した。 現在、合成した脂質プローブの、菌体における動態を解明するための研究を進めている。
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