研究実績の概要 |
昨年度の研究成果をまとめて論文発表をするに至った'Detection of γH2AX foci in mouse normal brain and brain tumor after boron neutron capture therapy. N Kondo, H Michiue, Y Sakurai, et al. Reports of Practical Oncology & Radiotherapy, doi:10.1016/j.rpor.2014.10.005'。中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)の機序は硼素化合物を取り込んだ癌細胞に熱中性子を照射すると、10B原子核は直ちに細胞1つ分の極短飛程のα粒子とLi原子核に分裂し、これらの粒子は持っているエネルギーを飛程に沿って周囲に付与し、重篤なDNA損傷であるDNA二本鎖切断(DSB)を生成する。BNCTによって生じるα粒子とLi原子核の核分裂は163kev/μm, 210 kev/μm のHigh LET放射線である。DSBの指標であるγH2AXのfocusを用いて評価すると、high LET放射線によって生じるDSBはγ線やX線などの低LET放射線によって生じるDSBよりもサイズが大きく、修復されにくい傾向がある。BNCTによって生じるDSBの数の変化をγH2AXのfocusのサイズを指標にして、マウスの正常脳と脳腫瘍モデルで調べた。中性子捕獲反応が起こったBoronophenylalanine (BPA)投与群のDSBは正常脳、腫瘍組織ともに24時間後においても消失しなかった。一方BNCT照射時に混じっていると想定されるγ線の成分のみを照射した場合、正常脳と脳腫瘍組織中ともに24時間後には完全に消失していた。BNCTによって生じるDSBは正常脳においても、脳腫瘍組織内においてもγ線で生じるDSBに比べると修復が困難であるため24時間後も残ったと考えられる。BNCTの治療で腫瘍細胞を殺す意味においては極めて有利である。
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