研究課題/領域番号 |
25870384
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊東 潤二 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10638844)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 転写因子 / 細胞 / 移動 / 増殖 / 幹細胞 / 細胞生物学 / 分子生物学 / 遺伝学 |
研究概要 |
乳癌は、いくつかのサブタイプに分類されている。その中で、basal-like 乳癌は、いくつかのサブグループに分けることができると示唆されており、本研究課題では、そのサブグループの特徴の解析を進めている。特に転写因子の同定や、同定した因子の悪性度との関わりの詳細な解析を目的としている。 転写因子 SALL4 は、個体発生や生体幹細胞に必要な因子であり、また、癌細胞でも発現が確認されている。研究代表者は、この因子について、様々な乳癌細胞株で発現抑制実験を行ったところ、一部の basal-like 乳癌株が、SALL4 依存的にその悪性度を維持していることを見出した。 SALL4 依存的な乳癌細胞株グループにおいて、shRNA 法により SALL4 を抑制した結果、転移性の癌細胞の特徴である間葉系細胞の形態が失われており、また、細胞の移動能が低下していた。それらの変化に加え、細胞間の接着能が上昇していた。SALL4 の機能として、癌細胞の増殖の正の制御が知られていたが、本研究課題では、SALL4 の新たな機能として、悪性度の指標である転移能への関与が示された。 分子レベルの変化として、SALL4 による増殖を促進する転写調節因子 BMI1 の転写レベルでの正の制御を確認した。また、間葉系の性質や移動能を維持することで知られている転写因子 ZEB1 が SALL4 に正に制御されていることを明らかにした。細胞間接着に関しては、接着因子 E-cadherin の発現上昇が、SALL4 抑制株により確認された。さらに、SALL4 が、癌の転移時に基底膜を通るために必要な、MMP2 の発現を正に制御していることを見出している。これらの成果は、悪性度が高いことで知られている basal-like 乳癌の特徴を、転写因子の機能解析により明らかにしたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画で目標としていた、basal-like 乳癌のサブグループの分類は、SALL4 の同定とその依存性の違いを解析することにより達成されている。また、その新規に分類されたグループの特性の理解については、SALL4 の機能解析により、細胞レベル、分子レベルでの変化を明らかにしたことにより、大部分は達成されている。悪性度との関わりについては、SALL4 と転移能の関係を明らかにし、そこの関わる因子の変化もすでに明らかにしている。転移能については、動物実験による検証を行っている。 その動物における転移能の解析については、ゼブラフィッシュ胚を用いた転移モデルにより、SALL4 抑制により転移能が低下することを確認しており、データを充実させる段階である。 さらに、本研究課題では、悪性度の指標でもある幹細胞能との関わりについて、その検証を行う実験系の構築を試みている。SALL4 は生体幹細胞において、その増殖、維持に必要であることから、癌細胞においても同様の機能を果たしている可能性が高い。本研究課題では、幹細胞の特性である、増殖の速度の変化と非対称分裂に着目した。そして、蛍光タンパク質を利用した増殖評価系を考案し、増殖速度が異なる細胞や、非対称分裂を行っている細胞を、生きたまま単離することに成功した。この増殖評価系を用い、新規 basal-like サブグループの幹細胞能に関する知見を充実させる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、SALL4 をキーファクターとして、新規サブグループの特性の解析を進めている。SALL4 が、細胞の増殖能、転移能に関わることから、SALL4 が制御する遺伝子の中に、細胞にそれらの能力を付与する因子が含まれている可能性が高い。本研究課題により、すでにいくつかは同定されているが、予備的実験から、未同定のものが存在する可能性が示唆できており、その未同定な因子の同定は、新規サブグループの理解に重要であると考えられる。本研究課題では、SALL4 抗体を用いた ChIP 解析のデータを元に、ゲノム上で SALL4 が結合する部位の情報から、SALL4 に制御されていると予測される遺伝子群の機能解析を行う。 SALL4 の上流で、その発現を正に制御している因子として、STAT3 が知られている。STAT3 は、IL-6 刺激により活性化される。予備的実験により、IL-6 刺激により、SALL4 の発現量が上昇することを確かめている。しかし、IL-6、STAT3 と乳癌の増殖能、転移能については、分子レベルでの詳細な解析はされておらず、SALL4 がそこに介在している可能性が高い。本研究課題では、それら SALL4 の上流の因子の解析も進める。 また、新規サブグループの幹細胞能について、新たに考案した評価系により検証を行う。その評価系では、従来法と異なり、2次元培養系に加えて、3次元培養系での解析も可能としている。3次元培養により、幹細胞能の解析を行うことで、より生体内に近い状態での細胞の特性の解析が可能となる。そのため、本研究課題では、この系の確立とそれを用いた解析を進める。
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